まだ青い彼
「俺、ガンガン詰めるからな」
「ええ、はい」
「尻込みすんなや、散々結婚したいって言ってたくせによ」
「ははは! 」

 しばらく笑いあって、繋いだ手にじんわり汗をかいた頃、私は立ち上がった。

「さ、帰ろうっか」
「そうだな」

 と言いながら、私を抱き寄せてちゅ、と軽いキスをする。屈んだまま私の顔をのぞき込むと、「んー」と唸って見つめて来る。何だろうかと目を逸らす。

「逃げてんなよ」
 また唇を押し当てるようなキスをして、だんだん重くなっていく。

 はあ、と吐息が漏れた。今日みたいな日は帰りがたい。
「ね、このままうちに……来る? 泊っていって」

 唇を完全に離すと広睦くんがうわっと叫んだ。
「俺、明日入社前研修。え、今日まで全然暇だったんだけど、明日。よりによってそんなことある? 泊まるとか、そんなチャンス逃すことある。いけるか、早く起きて……」
 頭を抱えて真剣に言うから吹き出してしまった。

「そっか、入社前研修って段階的にあるもんね。うちの会社もそうだった。明日からかぁ、頑張って! 」
「え、待てよ。これこのままにすんの、せっかくなのに!? 」

 必死な様子に笑ってしまう。

「そっち、優先。何かあったらダメでしょう。これからしっかり稼いでもらわないと」

 広睦くんは脱力してため息を吐いた。
 
「まじかぁ。さっそく社会人の洗礼受けてんのか、これ。先輩たちが社会人なって早起きするのと夜更かし出来ないのが辛いって行ってたっけ」
 じと目で見てくるから私は広睦くんを慰めるように笑って言った。

「私たちは、先が長いんだから」

 とはいえ、私も残念だけど、今日は気持ちが満たされただけで十分、かな。

「ちぇ、まぁ今日は幸せだからいっか。楽しみの先延ばし。ね、()()()()()

 大胆不敵にあの日と同じ笑顔で七瀬広睦(22)は笑った。
 (秋の初めに誕生日を迎えたらしい。今度お祝いしようね)
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