まだ青い彼
「東谷さん、橘さんって独身なの知ってましたか!」

 隣の席の沢田さんが前のめりで言って来たので慌てて諫めた。

「うん、知ってたけど、あまり大きな声では……ね? 」

 沢田さんは慌てて口を押えるとキョロキョロして誰も聞いていないとわかるとホッとして声を落として私に聞いてきた。

「誰にも言いませんから正直に言って下さい。橘さんと付き合ってたり……」
 慌てて首を横に振ると沢田さんは心底ほっとした顔をしたことで察した。この子、橘さんが好きなんだ――と。必死な様子にもう少し安心させてあげたくなった。

「私ね、もうすぐ結婚するの。相手は会社とは関係ない人だから」

 沢田さんの顔がパッと明るくなった。
「本当ですか! おめでとうございます! 」
「うん。まだ会社に行ってないから秘密ね」
 そう言うと沢田さんはこくこく頷いた。

「東谷さん、橘さんとしょっちゅうご飯言ってるからてっきり……」
「橘さんがこっちにいた頃、私の教育係してくださっていてね。付き合いは長いから。なかなか橘さん気楽に飲める人が私くらいしかいないんだと思うよ」
「そうなんですね、でも何となく橘さんって東谷さんの事好きなのかなって思ってたからホッとしました」

 なかなかに鋭くて変な汗をかきそうだ。
「あはははは」
「じゃあ、恋人とかいるのか知ってますか? 離婚されてそんなに経ってないしこっち来てそんなにも経ってないし、いないなら今がチャンスですよね。あんな素敵な人がフリーなんて奇跡でしょ。正直みんな狙ってんじゃないかと焦ってしまって」
「あーどうだろうね」
「すみません、こんな話しちゃって。でも、私橘さん見てたらお仕事頑張ろうって思えて、ポジティブになれるのいい恋なんじゃないかなと思ってます。見守って……ください……」

 途中で恥ずかしくなったのか真っ赤になって最後は消えるような声だった。
 ……可愛い。見ていて私の胸もうずうずする。
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