まだ青い彼
第4話
 言葉は胸を甘く疼かせ、とげが刺さったようにいつまでも残った。

 家に帰ると、いつもどおり週末のルーティン。一通りの家事を済ます。
 こころ、ここにあらずだった。

『さぁ』
 って何?
 彼の笑顔が頭から離れない。
 そりゃあ、私のこと好きだろうな、なんて思ったことないけど。でも、じゃあ、何であんな事言うの。完全に翻弄されていて『さあ』に傷つく自分もいて。『惚れた方が負け』に期待を寄せている。

 片付けもそこそこにソファに腰掛け、ため息を吐いた。
 眠いはずなのに、眠れそうもない。

 なんなの、あの子――。

 ブブッとスマホが震えて顔を上げた。
 七瀬広睦からだった。

『性欲と恋情の区別はついてる』

 ぶっと吹き出してしまった。根に持ってるし、続けて送って来たジト目にのスタンプが面白かった。

『ごめんって』

 つまり、これは、あなたの恋情なの?そう聞きたいのに勇気が出なかった。だけど、いくらか心のもやは晴れていた。あー、なんだかんだ今日一日あの子の事を考えて過ごしてしまった。

 これ、本当にまずい気がする。そう思って思い出した。私は――結婚がしたい。
 あの子に離婚歴があるってこと。ピンと来なくて昨夜は一瞬忘れていた。……違う、夕べは私も少なからず浮かれていて頭が回っていなかってってこと――。
 そうだ、紙だけの問題だとしても。あの子、結婚してたんだった。

 どんな人だったんだろう。
 これきりにするなら気にしても仕方がないはずの事が気にかかる。ああ、もう。結局感情がぐちゃぐちゃだ。

 ただ、私の心の中で七瀬広睦はころころと表情を変え、最後にはドキリとする笑顔を浮かべる。そのたびに私は胸のとげが疼く気がした。
 

 
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