まだ青い彼
「ごめん、春美さん」
 謝る広睦くんにゆるく首を振って指定の席へと座った。

 照明が落ちると、広睦くんは私の手を取って暗がりで顔をのぞきこむ。わずかに笑顔をつくると、広睦くんは眉を下げ前を向いた。
 映画が頭に入って来ない。さっきの彼女の視線が何度も思い出される。

 ――……あの子、広睦くんのこと好きなんだろうな。

 時々、広睦くんの手に力が入る。私が握り返してくるのか確かめているみたいだ。ぎゅっと握ってくる手の熱さに少し癒されるのも事実で私は一度だけ大人げなく強く握り返した。

 不意を突かれて広睦くんが「っい」と声を出し慌てて口を押えてる姿に吹き出した。別に広睦くんが悪いんじゃないけど、正体のぼんやりした鬱をぶつけただけだ。

 エンドロールが流れると、場内が少しずつ静寂を破る。
 私は、ライトが明るくなっても席を立たずにいた。さっきの子たちと被りたくはなかったから。

 ぱっと見回すと彼女たちの姿はなくホッとして立ち上がった。
「俺トイレ行くけど、春美さんはいいの? 」
「うん。大丈夫。そこの入り口で待ってるね」

 映画、ぼんやりと観ちゃってもったいなかったな、楽しみにしてたのに。俯いていると厚底のスニーカーとサンダルのネイルが目に入った。顔を上げるとさっきの子たちだった。

「広睦は? 」
 不躾に尋ねられムッとするが、大人の対応をと息を吐く。
「トイレに行ってるの」
 彼女たちはトイレの方向に目をやり広睦くんがいないのを確かめると話を続けた。どうやら、私に用があるらしかった。
「ねえ、お姉さん広睦の彼女って本当? 」
 
 声に出さず、ただ頷くと、隠すことなくムッとした顔をする。()()()()に明らかな悪意が乗っている。
「純粋に疑問だけど、どうして同世代と付き合わないの? 」

 どうして、って……。聞かれてすぐに答えらられなかった。
 
 
< 91 / 160 >

この作品をシェア

pagetop