まだ青い彼
 広睦くんはゲラゲラ笑いながらも腰掛ける所を見つけてくれた。

「待ってて、コーヒー買ってくる」

 ちょうどコーヒーでも飲みたいなって思っていた。
 
 アイスコーヒーを両手に戻って来た広睦くんは私の申し出を拒否して奢ってくれた。

「いただきます」
「うん。今日、どうでしたか」
「どう」
「楽しめたかってことです」
「うん、もちろん。何でそんなこと聞くの? 」
「例えば、社会人の男とのデートはどんな所に行くのかなって。張り合っても仕方ないからいつも通り過ごしたんだけど」
「何もかわらないよ。そんな気にしなくて。こうやって話すの楽しい」
「そっか、じゃあ、いいや」

 ほっとした顔で広睦くんはぼんやりと空を見上げた。まだほんのり明るい空と綺麗な横顔は切り取って持っておきたいくらい素敵で胸が痛いくらいだ。

「今日これからどうする? 」
「これから、ですか? 」

 首を傾げる広睦くんの表情ひとつひとつにたまらなくなる。いつもなら、もう少し話したら帰るって言うのに、この日はもう少し引き留めて欲しかった。

「うちに……くる? 」

 広睦くんが返事するまで、ドクンドクンと心臓の音が耳の奥で聞こえる。
 早く答えて、そう思うのに広睦くんは苦笑いするだけだった。 

 他愛無い話をして、飲み終わった空のコーヒーカップを持て余すようになったころ、広睦くんが立ち上がった。

「帰ろっか」

 私の空のカップを引き取り自分のと合わせて店のゴミ箱へと持って行ってくれた。
 背中を見送りながら、さっきの……流されたんだよね。そう認識する。

 戻って来た広睦くんは躊躇いなく私の手を取ってぎゅっと握ると駅へと歩き出した。

 別れ際の事だった。
「今までのデートと何にもかわらなかった? 」
「え、さっきのデートの話? うん。全然一緒だよ」
「全然かわらなくて、一緒。じゃあ、何で俺じゃダメなんですか」

 ぎゅっと一度私の手を強く握ると広睦くんは笑って手を離した。
 私はしばらくそこで小さくなっていく広睦くんの背中を見つめていた。

 
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