未完成のワンフレーズ
初対面で睨み付けてきた奴とは思えないくらい、優しい顔で歌う。
そんな李仁のことが、好き。
「う、うぅ⋯⋯うあ⋯⋯」
泣きたいのは私じゃない。きっと李仁やせんせーの方。
でも、一度溢れ出した涙は止まることを知らなくて。次から次へと床に雫を零して。
「紗綾ちゃん。ありがとう、ありがとう⋯」
ごめんなさい、ごめんなさい、せんせー。
貴方の弟は、死に戻りをしてまで私を助けてくれたのに。
私が死ぬのを防ぐために、歩道橋に先回りをしてギターを弾いていたのに。
私は、貴方の弟を救うことができない。生かせないよ。
「うう⋯⋯うわああああああ!!」
なんで、なんでなの。
なんで神様は、私の大切な人ばっかり連れて行っちゃうの?
暴力を振るってくるお父さんから守ってくれていたお母さんを、
音楽が好きで、私を救いに来てくれた李仁を、
なんで、連れて行っちゃうの。
「⋯⋯えして、返してよ!」
「紗綾ちゃん⋯」
「私の、私の⋯⋯っ! 好きな人を、時間を返してぇ!」
何してるんだろう、私。
「おいガキ! 旭に当たったってどうにもなんねぇだろ!」
「いいんだ、タケちゃん。紗綾ちゃんには想いをぶつける場所がいる」
「だからって好き勝手殴らせるわけにはいかねぇだろうが!!」
そうだよね、タケちゃんの言う通り。
せんせーに当たったってどうにもなるわけじゃない。
でも、
ムカつくの。腹立つの。嫌いなの。
これも運命だって、仕方のないことなんだってスカしてるせんせーがさ。
我が儘に自分の思い通りに行かなくて泣き叫ぶ自分がさ。