未完成のワンフレーズ
「さびし⋯かった⋯⋯」
なんで来てくれないんだろう。
一度だけでもお見舞いに来てほしかった。
四宮せんせーみたいに、頑張ったねって頭を撫でてほしかった。
「⋯⋯紗綾ちゃん、外に行こうか」
初めて見る四宮せんせーの悲しそうな顔。
その隣のタケちゃんも同じような顔をしてる。
嫌だな。二人がそんな顔をしてるとこを見るの。
私が外に行けば、笑えたら、二人も一緒に笑ってくれるかな。
「行く」
迷いなくそう返事すると、四宮せんせーは心底案したように表情を綻ばせた。
四宮せんせーとタケちゃんの二人が動かしづらい身体を支えてくれて、
ベッドを降りた私は二人に支えられながら中庭に出た。
「あ⋯⋯」
きっと、二人は始めから仕組んでいたんだろう。
私がここに来て、彼と会えるように。
「あははー! おにーちゃんギター下手くそー!」
「紗綾姉の方が上手ー」
「うるせぇよガキのくせにー」
そこには、上手くもないギターを胡座をかいた足の上にいて、子供達に囲まれる李仁の姿があった。
ニット帽を被ったちびっ子に馬鹿にされても笑っている、
ニット帽を被った李仁。
出会った頃に印象的だった闇に溶け込んでいた黒髪はない。
それでも、そこには確かに李仁がいた。
「あっ! 紗綾姉だ!」
子供達の一人が私に気がついて駆け寄ってきた。
可愛らしいおさげがニット帽から伸びている。きっと、医療用ウィッグをもらったんだろう。
「⋯⋯⋯っ」
その声であいつも私に気づく。
四宮せんせーに肩を支えられて、タケちゃんに手を握られている私に。
「ねー、紗綾姉。あのおにーちゃんギター下手なんだよー! 紗綾姉が聞かせてあげて!」
汚れなんて何も知らない純粋無垢な笑顔。
汚れきった私には到底作り出せない笑顔が目の前にある。