未完成のワンフレーズ
思わず病室に入ろうとすると、看護師さんが少しだけ笑って道を空けてくれた。
「もう大丈夫そうだから、少しだけね」
「……はい」
私は恐る恐るベッドの横まで歩いていく。
さっきまでなら、何も考えずに座っていたはずなのに。
今は、李仁に触れることすら怖かった。
「……座れよ」
「うん」
いつものパイプ椅子に腰を下ろす。
ちらっと隣に目を向ければ、ギターケースが立て掛けられたままだった。
シール、増えたな。
ギターを始めた頃、溜まりに溜まっていた私のシールを消費するために、ケースに貼り始めた。
最近、巷ではぼんぼん⋯⋯なんとかシールが流行っているらしくて。
本物は全然ゲットできない分、偽物は簡単に手に入るようで。
みっちゃんとか、患者のおばちゃんとか、色んな人からシールを押し付けられていた。
「あれ、このシール知らない。李仁が貼ったの?」
とは言え、私は全くシールに興味がなくて。
ここに良いシール帳があるから利用してるだけ。
「お兄が貼った」
「せんせー、こんな可愛いシール持ってるんだぁ」
「入院してる子供達からもらうんだと。お前と一緒で、消費するのに貼ってった」
まあ、でも、そのおかげで可愛くなったじゃん。
無地の真っ黒なケースもいいけど、シールでデコった姿の方がいい。
いつかこのケース全体をシールで埋め尽くしてやる。
今度、一緒にシールを買いに行くのも有りだね。可愛いおじさんのシールとか、サカバンバスピスとか、ウーパールーパーとかさ。
「⋯⋯ねぇ、李仁。真面目な話するよ」
「何だよ藪から棒に」
今までずっと見て見ぬふりしてきたけど、もうそろそろ解き明かさなきゃ。
「これ、何?」
私はギターケースを開けて、ギターではなく一枚の写真を取り出した。