【続編】ふたりの恋のそだてかた。

Ep.10 香月瑠奈の演技論

5月12日。9:30。
ガタゴトと電車に揺られながら、空色のブックカバーをつけた小説を一行一行なぞるように読み込んでいる。


中身は、【水色の僕と君】。
私と紫苑が共演する、映画の原作本だ。


ストーリーは、私が演じる自信のない引っ込み思案の少女・清水 琴乃(しみず ことの)と、紫苑が演じる爽やかなクラスの人気者・朝倉 湊(あさくら みなと)の淡く甘酸っぱい、高校生の青春ラブストーリー。

雨の日に偶然琴乃が駆け込んだ美術室で、物憂げにしている湊と鉢合わせるところから物語は始まる。

クラスの隅っこと、真ん中。
交わるはずのなかった2人が、孤独という接点を持ち少しずつ惹かれ合う。
友情と恋情、どちらともに似た淡い恋心を募らせていく、そんな物語だ。


要求されるのは最後まで恋心をぼんやりとしたニュアンスで醸す、純愛演技。
教室で空気みたいだった琴乃が、湊との交流によって少しずつ自分を前に出せるようになる人物変化。

そして、シナリオ上やっぱり最後まで爽やかで美しい湊から、成宮紫苑の新たな一面を引っ張り出すスパイス。


“成宮紫苑、覚悟しといて”


――なんで大見得切ったはいいけど、うーん。
どうしたものか……

車窓に流れる街並みが、平凡な住宅街から整った都心の街並みへと変わっていく。
窓に差す朝日が、悩ましい私の顔を照らしていた。

(一先ず、自分の役をしっかり作って落とし込む。
紫苑にばっかり気を取られて、自分が未完成じゃ意味がない)

目的の駅に着くアナウンスが聞こえて、閉じた小説をバッグにしまう。

一旦切り替えよう。このあとは、頭の中を一切合切組み替えないといけない。
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