【続編】ふたりの恋のそだてかた。
――ふっと静かに目を伏せて、表情から緊張を消し去る。
切なくて、でも何より大切な青い思い出を、そっと引き出しから取り出す愛おしさを声に乗せる。
「“――高校2年生の、夏”」
口元に、薄い微笑み。声色には、甘酸っぱい吐息を混ぜて柔くする。
多分少し大人っぽく調整している紫苑の落ち着いたトーンと、心地よく声色が絡む。
出した息を止めて、吸うまでに少しの前。
透明な世界に染まる空気感に、周りの人たちが息を呑む。
「“世界はちょっとだけ、水色だった”」
しん……とした静寂に、透き通る声が溶ける。
この次はト書きのナレーション。
間にしては長すぎる沈黙が落ちた。
「……あっ!すみません、続けます」
台本片手に惚けた顔をしたスタッフが、慌てたように台本を見始める。
「琴乃と湊だ……」
向かい側に座る真弓さんが、見開いた目を輝かせてポツリと呟く。その頬には、微かな赤みが差している。
緊張感のある腕組みで私たちを見ていた柏さんは、隣に座る演出家・工藤 慎吾さんとアイコンタクトして小さく唸る。
「さすがだね、香月さん」
蜂蜜色の視線をチラリとこちらに寄越して、ほとんど唇を動かさずに囁く紫苑に前を向いたまま笑みを返す。
(第一印象で殴る――ミッションクリアかな?)
控えめな琴乃の仮面の下で、そんなことを考えていた。