幼なじみからの独占愛に、もう逃げられない
放課後。
 日直の仕事を終えて教室へ戻ると、クラスの男子がわたしの机の前に立っていた。

「七瀬さん、明日の提出物ってここで合ってる?」

「あ、うん。たしかこの用紙だよ」

 わたしがファイルを取り出して見せると、その子は安心したように笑う。

「助かった。七瀬さんってほんと優しいよね」

「そんなことないよ」

 困っているなら助けたい。
 ただそれだけで答えただけなのに。

「結愛、帰るよ」

 背後から聞こえた声に、わたしはびくっとした。

 振り返らなくてもわかる。
 この少し低くて、落ち着いた声は咲也だ。

「もう少しかかるかも」

「かからないでしょ」

 そう言って、咲也はわたしの机の横に立つ。
 にこやかな顔。だけど、空気が少し冷たい。

「その書類なら、先生がさっき職員室に持っていったよ」

「え、そうなの?」

「うん。だから終わり」

 男子は気まずそうに頭をかいた。

「ごめん、引き止めちゃった」

「大丈夫」

 答えようとしたわたしより先に、咲也が口を開く。

「結愛、やさしいから誰の相手もしちゃうんだよね」

 笑っているのに、その声には妙な圧があった。

「でも、あんまり遅くまで付き合わせないで」

「あ……うん」

 男子が去っていくと、わたしはすぐに咲也を見た。

「今の言い方、ちょっと冷たくなかった?」

「そう?」

「そうだよ」

「だって事実だし」

「え?」

 咲也はわたしの鞄を持ち上げると、そのまま教室の出口へ向かう。
 わたしが慌てて追いかけると、廊下に出たところで足を止めた。

「結愛は、近すぎるんだよ」

「なにが?」

「みんなに」

 真正面から見つめられて、息が止まる。

「簡単に笑って、簡単にやさしくして、期待させる」

「期待なんてさせてないよ」

「させてるよ。少なくとも俺は嫌なくらい見てる」

 その声音は静かなのに、胸がぎゅっとなる。

「咲也……?」

「俺以外に、あんなふうにしないで」

 独占欲。
 その言葉が、頭の中にふっと浮かんだ。

 でも、幼なじみ相手にそんなこと思うのは変な気がして、すぐに打ち消す。

 だって咲也は、ただ昔から世話焼きなだけ。
 わたしを放っておけないだけ。

 そう思いたかった。
< 6 / 11 >

この作品をシェア

pagetop