幼なじみからの独占愛に、もう逃げられない
夕焼けに染まる帰り道。
 いつもの通学路を並んで歩くのに、今日は妙に緊張する。

「ねえ、咲也」

「なに」

「さっきの、どういう意味?」

 聞かなきゃいけない気がした。
 でも本当は、聞くのが少し怖かった。

 咲也はしばらく黙ってから、小さく息をつく。

「結愛ってさ」

「うん」

「ほんと鈍いよね」

「えぇ……」

「昔からずっと、俺ばっかり必死なのに」

 その言葉に、思わず足が止まる。

 咲也も止まって、ゆっくり振り返った。
 夕陽の中で見るその顔は、いつもみたいに完璧じゃなかった。
 余裕なんて消えていて、まっすぐで、熱くて、少し苦しそうで。

「俺、結愛の幼なじみって立場だけで満足してるように見える?」

 答えられない。

「見えるなら、それは失敗だ」

 一歩、距離が縮まる。

「結愛が誰かに笑うたび、やさしくするたび、平気なふりするのしんどい」

「……」

「俺は、そんなにいい子じゃないよ」

 低い声が、やけに甘く耳に残る。

「本当はずっと、結愛を俺だけのものにしたいって思ってる」

 どくんと大きく胸が鳴った。

 言葉の意味はわかる。
 わかるのに、心が追いつかない。

「咲也、それって」

「もう少しで、ちゃんと言う」

 そっと頬に触れられる。
 熱い指先に、逃げたいはずなのに逃げられない。

「だから覚悟して、結愛」

 やさしい笑み。
 だけど、その奥にあるものは、全然やさしくない。

「次に逃がす気、ないから」

 その瞬間、春の風がふわりと吹いた。
 桜の花びらが舞い落ちる中で、わたしはただ、咲也から目をそらせなかった。

 幼なじみだと思っていた。
 ずっと隣にいる、近すぎる存在だと思っていた。

 なのに今は、その距離が苦しいくらい甘くて。
 もう、前みたいには戻れない気がしていた。

 そしてきっと。
 これは、結愛がまだ知らない、独占愛のはじまりだった。
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