ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~
七時過ぎ。
改札のそばで待っていた凛が、俺に気づいて顔を上げた。
「お疲れさま。」
「お疲れ。腹減った?」
「うん。」
「俺も。すげえ減った。」
凛が小さく笑った。
さっきまで頭に詰まっていた仕事のことが、少し遠くなった。
駅の近くの定食屋で、向かい合って座った。
料理を待つあいだ、凛が珍しく、自分から仕事の話をした。
「今日、確認をお願いしてた書類が戻ってきたんだけど、私の説明が足りなかったみたいで。」
「うん。」
「直してほしいところは伝えたんだけど、理由も、最初に説明しておけばよかった。」
それなら、と口を開きかけて、止めた。
凛はまだ話の途中だった。
「もう一度話したら、分かってもらえたんだけど。余計な手間をかけちゃった。」
凛は水の入ったグラスに目を落とした。
「……ちゃんと伝えるのって、難しいね。」
「分かる。俺も今日、分かったつもりで返事しそうになった。」
「夏樹くんも?」
「俺は結構ある。そこは真似しなくていいけど。」
凛が笑って、少し肩を下げた。
「話したら、落ち着いた。」
「そっか。」
何か役に立つことを言わなきゃ、と思っていた。
でも、凛がもう一度メニューを眺めているのを見たら、それでよかった。
「土曜、どうする? どっか行きたい?」
「夏樹くんは?」
「会えれば、わりと何でも。」
「それだと、相談が進まないでしょ。」
「じゃあ、一緒に昼飯作る。で、映画見る。」
「夏樹くんの家で?」
「うん。今週、疲れたろ。」
凛は少し考えてから、頷いた。
「そういう休日も、いいね。」
出かける場所を決めなくても、会う約束はできた。
そのことが、なんだか嬉しかった。