ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~
食事を終えて駅へ戻ると、次の電車まで、あと四分だった。
「これ、乗れるな。」
発車案内を見上げて言ったくせに、俺はすぐには歩かなかった。
隣にいた凛も、鞄を持ち直しただけだった。
「……早くね?一時間ちょっとしか経ってない。」
「ご飯を食べてただけだからね。」
「もっといたいんだけど。」
「明日も、仕事だよ。」
正しかった。
俺も、凛も、朝から仕事だった。
「分かってる。……凛は、もう帰っても平気?」
聞くと、凛は少し眉を寄せた。
「平気だったら、もう改札を通ってる。」

俺は黙った。
そういうことを、不意に言うのはずるかった。
「……じゃあ、土曜は早めに待ち合わせしよ。」
「早めって、何時?」
「九時。」
「お昼を作るんだよね?」
「その前にも一緒にいたい。」
凛は呆れたように息をついて、それから笑った。
「そうだね。行く前に連絡するね。」
改札を通ったあと、ホームへ向かう通路で別れた。
凛の姿が見えなくなるまで見送ってから、俺も自分の乗る電車へ急いだ。
車内で、スマホの予定を開いた。
水曜日につけた印と、その三日先の土曜日を見た。
会えたばかりなのに、もう次を待っていた。
一緒に住めば、さっきの通路で別れなくて済む。
ふと、そう思った。
同棲。
頭に浮かんだ言葉を、しばらく眺めるように考えた。
住むなら、二人とも通いやすい場所がよかった。
家賃はどのくらい出せるだろう。
帰るのが遅い日は、先に帰った方が夕飯を作って。
そこまで考えて、自分で少し驚いた。
休日だけじゃなかった。
疲れた平日も、特に何もない夜も。
俺が思い浮かべた生活には、当たり前みたいに凛がいた。
同棲するなら、その先は。
……いや。
俺は、凛と結婚したいんじゃないか。
画面の上で、指が止まった。
思いついたことを、そのまま送るのはやめた。
凛がどう考えているのかも、これからどんなふうに働いていきたいのかも、ちゃんと聞きたかった。
まずは土曜日。
一緒に昼飯を作って、映画を見て。
そのあと、少し先の話もしてみようと思った。