ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~
部屋に戻って鍋を火にかけると、窓がうっすら曇った。
俺が皿を並べている間に、凛はテーブルの上の雑誌を端へ寄せた。
二人分の場所を作るその手つきを、つい目で追っていた。
「夏樹くんは?住むところの希望。」
「凛と住めれば、どこでも。」
「通勤に二時間かかっても?」
「……それはちょっと考える。」
「ちゃんと考えて。」
即答したら、即座に言い返された。
俺は凛の向かいに座った。
「お互い、会社に行きやすいとこがいいよな。俺だけ近くても、凛が大変だったら意味ないし。」
「うん。乗り換えも少ないと嬉しい。」
「あと、キッチン。さっき二人で立ったら狭かったし。」
「夏樹くん、ずっと引き出しの前にいたから。」
「あれ、俺が邪魔だっただけ?」
凛は笑ってから、少し考えるように視線を落とした。
「それと、別々のことをしてても落ち着ける場所があるといいな。」
「別々?」
「本を読んだり、勉強したり。夏樹くんも、家で仕事の資料を見ることあるでしょ。」
「ああ、そっか。」
一緒に住むといっても、ずっと同じことをするわけじゃなかった。
俺がテレビを見たいときに、凛は静かに本を読みたいかもしれなかった。
「じゃあ、俺が話しかけすぎたら言って。」
「言われる前に気づいてくれると助かる。」
「そこは努力する。」
鍋の蓋がかたかた鳴って、俺は立ち上がった。
食べながら、今度は家賃の話になった。
スマホでいくつか見てみると、駅に近くて、広くて、新しい部屋は、当然のように高かった。
「……みんな、考えること同じなんだな。」
「便利なところに住みたいもんね。」
「俺、毎月もう少し貯金しようかな。」
凛が箸を止めた。
「無理はしないでね。」
「してない。コンビニで余計に買うの減らすとか、そのくらい。」
「それなら、私も毎月いくら残せるか考えてみる。」
「凛も?」
「二人で住むんでしょ。」
当たり前みたいに返されて、俺はスマホから顔を上げた。
凛は豆腐を小さく崩しながら続けた。
「私も準備したい。夏樹くんだけで進めないで、相談して。」
「……うん。わかった。」
頼ってほしいとは思っていた。
でも、凛は俺と一緒に考えようとしてくれていた。
そのほうが、ずっと心強かった。
クリスマスの予定も、その延長で決まった。
「二十五日、どっか食べに行かない?」
ソファに座って店を探しながら聞くと、凛が俺のスマホをのぞき込んだ。
「いいね。夏樹くん、仕事は?」
「定時で帰れるように進める。予約は、ちょっと余裕ある時間にしようと思って。」
「私もその日は早く帰れるようにしておく。」
画面に並んだ店を、一緒に見ていった。
料理の写真も値段も、店によってずいぶん違った。
「せっかくだし、こういうとこ?」
少し背伸びした店を見せると、凛は写真を眺めてから俺を見た。
「ここも素敵だけど、私はこっちが気になる。」
凛が指したのは、小さなイタリアンの店だった。
気取らない雰囲気で、二人の会社からも行きやすい場所にあった。
「このパスタ、おいしそう。」
「ほんとだ。肉もある。」
「そこは外せないんだね。」
「大事だろ。」
凛は笑って、もう一度画面を見た。
「これからの貯金もしたいけど、こういう日は二人で楽しみたいな。」
「うん。」
「毎回すごく高いところじゃなくても、一緒に選べたら嬉しい。」
俺は店のページを開いた。
「じゃあ、今年はここにしよ。」
「うん。」
予約を済ませると、凛が自分のスマホの予定表にも店の名前を入れた。
その隣で、俺は予約完了の画面をもう一度確認した。
まだ先なのに、もう楽しみだった。
◇