ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~
十二月二十五日。
俺は朝から、今日中に終わらせる仕事を確認していた。
夕方になって慌てないように、確認が必要なものは早めに聞いた。提出する資料も見直して、送信を済ませた。
定時が近づくと、つい時計を見る回数が増えた。
帰る準備を整えて、時刻が変わったところで席を立った。
「お先に失礼します!」
挨拶をして、鞄を持った。
会社を出てからは、自然と足が速くなった。
予約までには余裕があった。
でも、その前に凛に会いたかった。
駅へ向かいながら、メッセージを送った。
『今出た!』
少しして、返信が届いた。
『私も。慌てなくて大丈夫だよ。』
……なんでわかったんだろ。
俺は歩く速さを、ほんの少しだけ緩めた。
待ち合わせの場所には、俺が先に着いた。
やがて改札から出てきた凛が、俺を見つけて小さく手を上げた。
「お疲れさま。」
「凛も。ちゃんと終われた?」
「うん。夏樹くんも早かったね。」
「定時で出てきた。」
「そんなに急がなくても、間に合ったでしょ。」
「いや、早く会えるじゃん。」
凛は一度口を閉じて、マフラーに少し顔を埋めた。
「……じゃあ、行こ。」
その声が柔らかくて、朝から頑張った甲斐があったと思った。
◇
店の窓には、小さな星の飾りが下がっていた。
予約の名前を伝えると、奥の二人席へ案内された。
コートを脱いで向かい合うと、凛がほっと息をついた。
「ちゃんと来られたね。」
「うん。メリークリスマス。」
「メリークリスマス。」
運ばれてきた飲み物で乾杯した。
凛が気になっていたパスタも、俺が楽しみにしていた肉料理もおいしかった。
一口食べるたびに顔を見合わせて、ここにしてよかったなと話した。
「最近、仕事どう?」
俺が聞くと、凛は少し考えた。
「任せてもらえることは増えたけど、まだ確認してばっかり。」
「わかる。俺も一人でできたと思ったら、抜けてたりする。」
「帰ってから、あれ大丈夫だったかなって思い出すことない?」
「ある。めちゃくちゃある。」
凛は小さく笑った。
俺もつられて笑いながら、入社した頃より、こういう話が増えたことに気づいた。
デザートが来る頃には、住む場所の話になっていた。
「この辺、二人とも来やすかったね。」
凛が窓の外を見ながら言った。
「住むのにもよさそう?」
「うん。でも、駅から少し離れたところも歩いてみたい。静かかどうか、知りたいし。」
「じゃあ、今度の休みに見てみる?」
「見てみたい。あと、スーパーも。」
「そこ、大事だもんな。」
凛は頷いてから、スプーンを置いた。
「まだ決めるのは先でも、二人で見ておきたいな。」
「うん。俺も。」

すぐに部屋を借りるわけじゃなかった。
それでも、次の休日に一緒にしたいことが、また一つ増えた。
店を出ると、冷たい空気に思わず肩をすくめた。
隣で凛がマフラーを巻き直していた。
「おいしかったね。」
「な。また来たい。」
「うん。ここなら、記念日じゃなくても来られそう。」
俺は頷いた。
少し先のことも、来週のことも。
凛から聞けるのが嬉しかった。
「次に来たら、俺、あっちのパスタ食べたい。」
「夏樹くん、食べてる人の見てたでしょ。」
「ばれてた?」
「すごく見てた。」
笑いながら、駅へ向かった。
住みたい街も、必要な貯金も、まだ相談の途中だった。
帰ったら、今日話したことをスマホのメモに足しておこうと思った。