ノンデリ男の敗北  ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~

八月に入った休日、凛といつもの花屋へ行った。

白い壁と、深い緑色の屋根。
何度も一人でくぐった入口を、その日は凛と並んで入った。

「ここで買ってくれてたんだね。」

「うん。最初のスズランも。」

凛は店先の鉢を見てから、店内へ視線を移した。

「一度、来てみたかったの。」

店主が俺に気づき、会釈した。
それから、隣にいる凛にも柔らかく笑いかけた。

「こんにちは。」

「今日は、家に飾る花を選びたくて。」

そう伝えると、小さな花瓶に生けやすい花をいくつか見せてくれた。

凛は白い花の前で足を止めた。

「これ、きれい。」

「白いの、好き?」

「うん。でも、こっちも気になる。」

指先が向いたのは、淡い黄色の花だった。

俺が選ぶときは、凛に似合いそうだと思って白い花を頼むことが多かった。
一緒に来ると、凛自身が迷うところまで見られた。

「両方にする?」

「花瓶、小さいよ。」

「じゃあ、一本ずつ。」

凛が頷いた。
二人で選んだ花を受け取り、店を出た。

帰りの電車では、凛が包みを持っていた。
花が隣の人に触れないよう、少しだけ自分のほうへ寄せていた。

「帰ったら、水に入れようね。」

「うん。」

同じ駅で降りて、同じ改札を抜けた。
スーパーに寄り、牛乳と卵も買った。

家に着くと、凛が花瓶を洗い、俺が包みを外した。
食卓の端に置いてから、二人で少し離れて眺めた。

「ここなら、ご飯のときも見えるね。」

凛がそう言ったので、俺もそこがよくなった。

◇

友人たちには、引っ越しの報告と一緒に、婚約したことを伝えた。

六人のグループにメッセージを送る前、凛に画面を見せた。

「これでいい?」

「うん。……夏樹くん、顔が嬉しそう。」

「嬉しい報告だから。」

送信すると、美奈からすぐに電話がかかってきた。
スピーカーに切り替えた途端、「おめでとう!」という声が部屋に響いた。

引っ越し祝いの日は、その電話の中で決まった。

九月の土曜日。
玄関を開けると、田中が飲み物の袋を持ち上げた。

「重い。早く受け取れ。」

「お祝いの第一声、それ?」

「おめでとう。で、重い。」

後ろで美奈が笑っていた。
詩織は小さな箱を両手で持ち、小川は大きな袋を提げていた。

テーブルに料理を並べると、少し窮屈だった。
普段の椅子に折り畳みの椅子を足して、六人で囲んだ。

「改めて、婚約と引っ越し、おめでとう。」

詩織がグラスを上げた。
俺たちも持ち上げ、軽く合わせた。

「ありがとう。」

隣で凛も頭を下げていた。

「凛、どう?一緒に住んでみて。」

美奈に聞かれ、凛は少し考えた。

「夏樹くんが、物を高いところに置く。」

「それ、今、直してるから。」

「あと、帰ってくるとすぐわかる。」

「うるさい?」

「ただいまの声が大きい。」

田中が吹き出した。

「想像つくわ。」

「嬉しいんだって。帰ったら凛がいるの。」

口にすると、隣から膝を軽く押された。
凛の耳が赤くなっていた。

「そういうの、普通に言うよね。」

美奈が笑い、小川が料理を取りながら頷いた。

「そこは変わんないな。」

大学の頃みたいに、話があちこちへ飛んだ。
仕事のこと、最近見た映画、次に集まれる日。

空いた皿を下げに立つと、凛も腰を浮かせた。

「座ってて。まだ食べてるだろ。」

「じゃあ、あとで洗うね。」

皿を重ねて戻ってきたとき、詩織が凛に小さく笑いかけていた。
凛も笑って、グラスを持ち直した。

◇
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