ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~
ブーケトスは、披露宴の途中、庭へ出て行った。
凛が持ったのは、あの花屋に頼んだ小さな花束だった。
白と淡い黄色の花に、リボンが揺れていた。
背を向けた凛が、少し緊張した顔で俺を見た。
「届くかな。」
「大丈夫。みんな、待ってる。」
凛が頷き、合図に合わせて投げた。
花束は思ったより高く上がった。
伸びた手の先へ落ちて、美奈の腕の中に収まった。
「え、私?」
美奈が目を丸くしたあと、花束を掲げた。
凛も嬉しそうに手を叩いていた。
写真を撮り終え、庭の端で六人が集まったときだった。
美奈は花束を眺めて、少し照れたように笑った。
「もらっちゃった。相手いないけど。」
隣にいた田中が、美奈を見た。
「……俺は?」
美奈の指が、リボンの上で止まった。
「え?」
「俺じゃ、だめ?」
さっきまで聞こえていた小川の笑い声も止まった。
俺は口を開きかけたけど、凛の指が袖に触れて、閉じた。
田中は一度息を吐いて、美奈に向き直った。
「ごめん。今のじゃ、わかんないよな。」
美奈は何も言わず、田中を見ていた。
「一緒に出かけるの、友達だからだけじゃない。美奈だから会いたいし、誘ってくれると嬉しかった。」
田中の耳が赤かった。
「好きなんだ。俺と付き合ってほしい。」
美奈が、花束を胸元に引き寄せた。
「……私だって、誰でもよかったわけじゃないよ。」
声が、いつもより小さかった。
「服、選んでって言ったのも。映画に誘ったのも。」
「うん。」
「田中と、二人で行きたかったから。」
田中が頷いた。
それでも待っていると、美奈は少し困ったように笑った。
「私も好き。……よろしくお願いします。」
俺は今度こそ、声を出した。
「よかったな、田中!」
「お前、声でかい。」
そう言った田中まで笑っていた。
凛は美奈と目を合わせて、「おめでとう。」と伝えた。
美奈は頷いてから、俺たちを交互に見た。
「ごめんね。二人の結婚式なのに。」
「謝ることじゃないだろ。嬉しいよ。」
俺が答えると、凛も頷いた。
「今日のこと、一緒に覚えていられるね。」
美奈が、もう一度花束を見下ろした。
その隣で、田中が照れくさそうに首の後ろをかいていた。
◇
「俺たちもさ。」
小川が口を開いたのは、会場へ戻ろうとしたときだった。
「来月、引っ越すことになった。」
「部屋、決まったの?」
凛に聞かれ、詩織が頷いた。
「うん。二人とも、通勤があまり変わらないところ。」
「本棚は?」
俺が聞くと、小川が笑った。
「置ける。俺の机も。」
「寸法、何回も測ったよね。」
詩織の言葉に、小川は「入らなかったら困るし。」と返した。
二人とも、穏やかな顔をしていた。
「落ち着いたら、遊びに来て。」
「今度は俺が飲み物持ってく。」
俺が言うと、田中がすかさず口を挟んだ。
「重いから、玄関ですぐ受け取ってもらえよ。」
六人で笑った。
会場へ続く扉の前で、小川が詩織を待っていた。
美奈は花束を田中に少し預け、ドレスの裾を直していた。
俺も凛に手を差し出した。
凛は慣れた仕草で、その手を取った。
◇