ノンデリ男の敗北 ~モテる俺が法学部女子に告白したら「私は好きではありません」と普通に振られた~
式が終わり、みんなを見送ったあと。
控室で二人きりになると、凛が椅子に座って、ほっと息をついた。
「楽しかったね。」
「うん。……終わっちゃったな。」
俺は隣に座った。
朝から何度も見ているのに、また凛の顔を見ていた。
「何?」
「結婚したんだなって。」
「今日、何回目?」
「まだ言うと思う。」
凛は笑って、左手を広げた。
俺も自分の手を並べた。
二つの指輪が、部屋の明かりを受けて光っていた。
「最初に告白したとき、こうなると思わなかった。」
俺が言うと、凛が顔を上げた。
「あのときは、付き合えないって言ったもんね。」
「『私は好きではありません。』って、はっきり。」
「……覚えてるんだ。」
「そりゃ、覚えてるよ。」
あんなに迷いなく断られたのは、初めてだった。
悔しくて、気になって、気づけば凛に会える日を待っていた。
「今なら、何て言ってくれる?」
凛は少し目を細めた。
「聞かなくても、わかるでしょ。」
「わかってても、聞きたい。」
凛は俺の手に自分の手を重ねた。
それから、まっすぐに見上げてきた。
「愛してるよ、夏樹くん。」
……それは、ずるいだろ。
聞いたのは俺だった。
なのに、返す言葉が出てこなかった。
指先まで熱くなって、目の前がまたぼやけた。
凛は驚いたように瞬きをして、俺の顔をのぞき込んだ。
「また泣くの?」
「……誰のせいだと思ってんの。」
「夏樹くんが、聞きたいって言ったんだよ。」
そのとおりだった。
言い返せることなんて、一つもなかった。
昔の俺は、恋愛でこんなふうになるとは思っていなかった。
たった一人の言葉に浮かれて、落ち込んで。
結婚式が終わったあとまで、泣かされるなんて。
「私は好きではありません。」
あの日、きっぱり俺を振った人が、今は隣にいた。
同じ指輪をつけて、俺の涙を拭おうとしていた。
もう、どうしようもなかった。
俺は目元に伸びてきた手を取り、両手で包んだ。
「俺も、愛してる。凛。」
凛の頬が赤くなった。
それでも目をそらさず、嬉しそうに笑った。
その顔を見た途端、わかった。
明日も、明後日も、俺はきっと、この人を喜ばせたくなる。
かっこつけても見抜かれて、何気ない一言に舞い上がって、何度でも惚れ直す。
完全に、俺の負けだった。
取り返したいとも、思わなかった。
「……一生、凛には勝てる気がしない。」
「私に勝って、どうするの?」
「どうもしない。もう、負けでいい。」
凛が小さく笑い、俺の肩に寄り添った。
「じゃあ、ずっと私の隣にいてね。」
俺はその肩を抱き寄せた。
最後の最後まで、俺がいちばん言ってほしいことを、この人は言った。
「……喜んで。」



