そこにあったはずの愛
番外編2「壊れそうな私」玲依編
「私以外の女を抱かないって約束するなら」
あの日、そう告げた時は、ただの縛りのつもりだった。
荒れた生活に、区切りをつけるための、ただの条件。
けれど、いつからだろう。
その言葉の意味が、少しずつすり替わっていったのは。
凛が来るまでの時間、いつも落ち着かなかった。
時計を、何度も見てしまう。
支度はとっくに終わっているのに、鏡の前で何度も髪を直す。
こんな自分に、自嘲するしかなかった。
条件を提示したのは、自分の方だった。
対等な、契約のような関係。
そのはずだった。
けれど、本当は。
条件という建前を借りて、ただ、あの子を独り占めしたかっただけなのだと、いつしか気づいてしまった。
凛は、金づるのつもりで、この関係に入ってきたはずだった。
軽い態度、軽い言葉。
本気になっている様子は、どこにも見えなかった。
だから、いつ離れていってもおかしくない。
その事実が、時折、息ができなくなるほどの不安になって押し寄せてきた。
もし、他に誰かできてしまったら。
想像するだけで、指先が冷たくなる。
自分から提示した条件のはずなのに、いつの間にか、それを破られることの方を、何よりも恐れていた。
対等でいるつもりだった。
けれど、本当は。
この関係の中で、ずっと弱い立場にいたのは、自分の方だったのかもしれない。
凛は、いつでもこの関係から降りられる。
軽い態度のまま、何も失わずに、去っていける。
自分だけが、失うことを恐れて、身動きが取れずにいる。
好きだと、言えたら楽になるのだろうか。
けれど、言葉にした瞬間、この歪んだ均衡が崩れる気がした。
体だけの関係という建前があるからこそ、辛うじて繋がっていられる。
そんな気がしてならなかった。
もし、想いを伝えて、拒まれたら。
その先には、何も残らない。
今、辛うじて手にしているものすら、失ってしまう。
そう思うと、どうしても、言葉が喉の奥で止まってしまうのだった。
玄関の方から、物音がした。
心臓が、跳ねる。
慌てて、鏡を見た。
不安も、恐れも、全部、表情の下に押し込める。
いつもの、感情の読めない自分に戻る。
「いらっしゃい」
平静を装った声で、そう迎えた。
凛が、いつもの軽い調子で笑いかけてくる。
その笑顔の裏に、何が隠れているのか、今はまだ、知る由もなかった。
好きだと、言えないまま。
壊れそうな自分を、誰にも悟られないように。
今日もまた、平静を取り繕いながら、この歪んだ時間を、大切に抱きしめていた。
「私以外の女を抱かないって約束するなら」
あの日、そう告げた時は、ただの縛りのつもりだった。
荒れた生活に、区切りをつけるための、ただの条件。
けれど、いつからだろう。
その言葉の意味が、少しずつすり替わっていったのは。
凛が来るまでの時間、いつも落ち着かなかった。
時計を、何度も見てしまう。
支度はとっくに終わっているのに、鏡の前で何度も髪を直す。
こんな自分に、自嘲するしかなかった。
条件を提示したのは、自分の方だった。
対等な、契約のような関係。
そのはずだった。
けれど、本当は。
条件という建前を借りて、ただ、あの子を独り占めしたかっただけなのだと、いつしか気づいてしまった。
凛は、金づるのつもりで、この関係に入ってきたはずだった。
軽い態度、軽い言葉。
本気になっている様子は、どこにも見えなかった。
だから、いつ離れていってもおかしくない。
その事実が、時折、息ができなくなるほどの不安になって押し寄せてきた。
もし、他に誰かできてしまったら。
想像するだけで、指先が冷たくなる。
自分から提示した条件のはずなのに、いつの間にか、それを破られることの方を、何よりも恐れていた。
対等でいるつもりだった。
けれど、本当は。
この関係の中で、ずっと弱い立場にいたのは、自分の方だったのかもしれない。
凛は、いつでもこの関係から降りられる。
軽い態度のまま、何も失わずに、去っていける。
自分だけが、失うことを恐れて、身動きが取れずにいる。
好きだと、言えたら楽になるのだろうか。
けれど、言葉にした瞬間、この歪んだ均衡が崩れる気がした。
体だけの関係という建前があるからこそ、辛うじて繋がっていられる。
そんな気がしてならなかった。
もし、想いを伝えて、拒まれたら。
その先には、何も残らない。
今、辛うじて手にしているものすら、失ってしまう。
そう思うと、どうしても、言葉が喉の奥で止まってしまうのだった。
玄関の方から、物音がした。
心臓が、跳ねる。
慌てて、鏡を見た。
不安も、恐れも、全部、表情の下に押し込める。
いつもの、感情の読めない自分に戻る。
「いらっしゃい」
平静を装った声で、そう迎えた。
凛が、いつもの軽い調子で笑いかけてくる。
その笑顔の裏に、何が隠れているのか、今はまだ、知る由もなかった。
好きだと、言えないまま。
壊れそうな自分を、誰にも悟られないように。
今日もまた、平静を取り繕いながら、この歪んだ時間を、大切に抱きしめていた。