そこにあったはずの愛
番外編7-1「初めて眠った夜」凛編
バイトを、また一つ増やした。
深夜の品出し、早朝の清掃。
隙間を埋めるように、シフトを詰め込んでいった。
疲れは、確実に溜まっていた。
けれど、行かないわけにはいかなかった。
玲依との時間を減らせば、何かに気づかれる気がした。
その日も、いつも通り、玲依のマンションを訪れた。
シャワーを浴びて、リビングに戻る。
体が、鉛のように重かった。
ソファに座った瞬間、抗いようのない眠気が襲ってきた。
早く、始めなきゃ。
頭では、そう思っていた。
けれど、瞼が、どうしても持ち上がらなかった。
意識が、ゆっくりと沈んでいく。
抗う力は、もう残っていなかった。
目が覚めると、体に、ブランケットがかかっていた。
視界が、ぼんやりしている。
自分が、いつの間にか眠ってしまったことに、遅れて気づいた。
時計を見ると、夜中の三時を回っていた。
リビングを見回しても、玲依の姿はなかった。
心臓が、嫌な音を立てる。
そっと、寝室のドアに近づいた。
規則正しい寝息が、微かに聞こえてくる。
玲依が、ベッドで眠っていた。
その光景に、しばらく立ち尽くした。
こんなことは、初めてだった。
三年近く、この関係を続けてきて、一度もなかったことだった。
どうすればいいのか、分からなかった。
起こすべきなのか。
このまま、何事もなかったように、始めるべきなのか。
けれど、どちらの選択肢も、今の自分には、うまく取れそうになかった。
眠ってしまった自分への情けなさと、玲依が何も言わずにブランケットをかけてくれていたという事実が、頭の中で入り混じっていた。
その優しさが、いつもの「契約」とは、少し違う響きを持っている気がした。
考えても、答えは出なかった。
リビングに戻り、テーブルの上にあったメモ帳に、手を伸ばした。
『今日は帰る』
短く、それだけを書いた。
書きながら、いくつもの言葉が、頭の中を巡った。
ごめん。
疲れてて。
また今度。
けれど、どれも、うまく言葉にできなかった。
シンプルな一文だけを残して、鞄を持ち直した。
玄関を出る前に、もう一度だけ、寝室の方を振り返った。
規則正しい寝息が、まだ聞こえている。
その音に、少しだけ、安堵している自分がいた。
静かに、鍵を閉めて、部屋を後にした。
夜道を歩きながら、頭の中では、まだ答えの出ない問いが渦巻いていた。
なぜ、起こさなかったのだろう。
なぜ、ブランケットを、かけてくれたのだろう。
その優しさの意味を、深く考えることを、まだ自分に許していなかった。
バイトを、また一つ増やした。
深夜の品出し、早朝の清掃。
隙間を埋めるように、シフトを詰め込んでいった。
疲れは、確実に溜まっていた。
けれど、行かないわけにはいかなかった。
玲依との時間を減らせば、何かに気づかれる気がした。
その日も、いつも通り、玲依のマンションを訪れた。
シャワーを浴びて、リビングに戻る。
体が、鉛のように重かった。
ソファに座った瞬間、抗いようのない眠気が襲ってきた。
早く、始めなきゃ。
頭では、そう思っていた。
けれど、瞼が、どうしても持ち上がらなかった。
意識が、ゆっくりと沈んでいく。
抗う力は、もう残っていなかった。
目が覚めると、体に、ブランケットがかかっていた。
視界が、ぼんやりしている。
自分が、いつの間にか眠ってしまったことに、遅れて気づいた。
時計を見ると、夜中の三時を回っていた。
リビングを見回しても、玲依の姿はなかった。
心臓が、嫌な音を立てる。
そっと、寝室のドアに近づいた。
規則正しい寝息が、微かに聞こえてくる。
玲依が、ベッドで眠っていた。
その光景に、しばらく立ち尽くした。
こんなことは、初めてだった。
三年近く、この関係を続けてきて、一度もなかったことだった。
どうすればいいのか、分からなかった。
起こすべきなのか。
このまま、何事もなかったように、始めるべきなのか。
けれど、どちらの選択肢も、今の自分には、うまく取れそうになかった。
眠ってしまった自分への情けなさと、玲依が何も言わずにブランケットをかけてくれていたという事実が、頭の中で入り混じっていた。
その優しさが、いつもの「契約」とは、少し違う響きを持っている気がした。
考えても、答えは出なかった。
リビングに戻り、テーブルの上にあったメモ帳に、手を伸ばした。
『今日は帰る』
短く、それだけを書いた。
書きながら、いくつもの言葉が、頭の中を巡った。
ごめん。
疲れてて。
また今度。
けれど、どれも、うまく言葉にできなかった。
シンプルな一文だけを残して、鞄を持ち直した。
玄関を出る前に、もう一度だけ、寝室の方を振り返った。
規則正しい寝息が、まだ聞こえている。
その音に、少しだけ、安堵している自分がいた。
静かに、鍵を閉めて、部屋を後にした。
夜道を歩きながら、頭の中では、まだ答えの出ない問いが渦巻いていた。
なぜ、起こさなかったのだろう。
なぜ、ブランケットを、かけてくれたのだろう。
その優しさの意味を、深く考えることを、まだ自分に許していなかった。