そこにあったはずの愛
第十九話 報告

昼休み、コンビニのコーヒーを片手に、彩奈と休憩スペースの隅に座った。

窓から差し込む光が、テーブルの木目を白く際立たせている。

何気ない世間話の合間、玲依はふと口を開いた。

「今度、あの子と、出かけることになった」

言った瞬間、自分の声が、思ったより硬く聞こえた気がした。

彩奈が、コーヒーを口に運ぶ手を止める。

「え」

「マジで?」

身を乗り出してくる彩奈の勢いに、玲依は少し気圧された。

「土曜、ご飯」

「それだけ」

短く付け加えると、彩奈の顔が、みるみる綻んでいった。

「良かったじゃん」

「ちゃんと外で会うんだ」

その一言に、玲依は小さく息を止めた。

――

「ちゃんと」という言葉が、思いのほか胸に刺さった。

これまでの三年間が、まるで「ちゃんとしていなかった」と言われているようで。

けれど、彩奈に悪意がないことは分かっていた。

むしろ、それは正しい指摘だった。

体だけの関係で、外に出ることも、名前を呼び合うだけの外の世界を共有することもなかった三年間。

それを「ちゃんと」していなかった、と言われて、玲依は何も言い返せなかった。

「そういう関係って、誰が決めたの」

いつかの彩奈の一言が、また耳の奥で響く。

あの言葉があったから、今、自分はここにいる。

そう思うと、彩奈の無邪気さに、密かに救われている自分がいた。

「緊張してる?」

彩奈が、からかうように顔を覗き込んでくる。

「別に」

そう答えながらも、指先が、コーヒーカップの表面をなぞっていた。

自分でも、うまく言葉にできない緊張が、確かにそこにあった。

――

土曜日の朝。

いつもより早く目が覚めた。

クローゼットを開け、いつもより長く、その前に立ち尽くした。

何を着るか、これほど迷ったことは、今までなかった気がする。

仕事用のスーツでもなく、休日の適当な部屋着でもない。

その中間の、どこにも属さない服を選ぶことの難しさに、初めて気づかされる。

鏡の前で、何度も自分の姿を確認した。

こんなふうに鏡を見つめるのは、いつ以来だろう。

褒め言葉を浴び続けて育った玲依にとって、鏡は長い間、自分を映す道具ではなく、他人の視線を確認する道具だった。

けれど今日は、少しだけ違う気がした。

誰かに、綺麗だと思われたいわけではない。

ただ、その人の前で、少しでも自分らしくいたい、という感覚だった。

その感覚の正体を、玲依はまだ、うまく言葉にできずにいた。

――

家を出て、街へ向かう。

いつもと同じ道のはずなのに、見える景色がどこか違って見えた。

土曜の昼下がり、通りには家族連れやカップルが行き交っている。

その光景の中に、自分が交じっていることが、なぜか不思議な感覚だった。

三年間、二人の世界はいつもマンションの中で完結していた。

外の光、外の音、外の人々の視線。

そのすべてが、今日は初めて、二人の関係の中に入り込んでくる。

その実感が、じわりと胸の奥に広がっていく。

嬉しさと、落ち着かなさが、綯い交ぜになって押し寄せてきた。

――

待ち合わせ場所が見えてくる。

雑踏の中、見慣れた輪郭を目が探し当てる。

見つけた瞬間、心臓が、大きく跳ねた。

三年間、数え切れないほど見てきたその姿が、今日はまるで初めて見るもののように、鮮やかに映った。

玲依は、その場に立ち止まったまま、しばらく動けずにいた。
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