そこにあったはずの愛
第二話 合鍵
マンションのドアの前に立つと、隙間から明かりが漏れていた。
来てるんだ。
そう思うだけで、驚きはなかった。
鍵を差し込み、玄関を開ける。
リビングのソファに、凛が座っていた。
テレビの光が、その横顔を青白く照らしている。
「おかえり〜」
振り返りもせず、軽い声だけが返ってきた。
名前も、年齢も、通っている大学も知っている。
けれどそれ以外のことは何も知らない。
三年経った今も、それは変わらない。
それでいて、合鍵だけは渡してある。
玲依はカバンをソファの端に置き、寝室へ向かった。
その背中に、凛が腕を回してくる。
「ねえ」
うなじに、息がかかった。
「お酒臭い」
「飲んできたの?」
「少しね」
短く答えて、玲依はその腕をほどこうとする。
けれど凛は離さなかった。
「昼間、連絡したのに」
「出なかったよね」
責めているようで、責めていない声だった。
いつものことだから。
凛からの連絡の意味を、玲依はよく知っている。
抱きたい、という合図。
それ以上でも、それ以下でもない。
いつもなら、断らなかった。
今夜は、少しだけ違った。
彩奈に投げかけられた言葉が、まだ胸の奥に引っかかっている。
なんでそんな条件にしたの。
ちゃんと付き合えば良かったじゃん。
答えられなかった、その理由。
「今日は」
言いかけた声を、凛の唇が遮った。
抵抗する気は、起きなかった。
いつもと同じように、体から力が抜けていく。
考えることを、やめてしまう。
これでいい。
そう自分に言い聞かせながら、玲依は目を閉じた。
胸の奥で、何かが小さく軋んだ気がした。
けれどその音は、すぐに聞こえなくなった。
マンションのドアの前に立つと、隙間から明かりが漏れていた。
来てるんだ。
そう思うだけで、驚きはなかった。
鍵を差し込み、玄関を開ける。
リビングのソファに、凛が座っていた。
テレビの光が、その横顔を青白く照らしている。
「おかえり〜」
振り返りもせず、軽い声だけが返ってきた。
名前も、年齢も、通っている大学も知っている。
けれどそれ以外のことは何も知らない。
三年経った今も、それは変わらない。
それでいて、合鍵だけは渡してある。
玲依はカバンをソファの端に置き、寝室へ向かった。
その背中に、凛が腕を回してくる。
「ねえ」
うなじに、息がかかった。
「お酒臭い」
「飲んできたの?」
「少しね」
短く答えて、玲依はその腕をほどこうとする。
けれど凛は離さなかった。
「昼間、連絡したのに」
「出なかったよね」
責めているようで、責めていない声だった。
いつものことだから。
凛からの連絡の意味を、玲依はよく知っている。
抱きたい、という合図。
それ以上でも、それ以下でもない。
いつもなら、断らなかった。
今夜は、少しだけ違った。
彩奈に投げかけられた言葉が、まだ胸の奥に引っかかっている。
なんでそんな条件にしたの。
ちゃんと付き合えば良かったじゃん。
答えられなかった、その理由。
「今日は」
言いかけた声を、凛の唇が遮った。
抵抗する気は、起きなかった。
いつもと同じように、体から力が抜けていく。
考えることを、やめてしまう。
これでいい。
そう自分に言い聞かせながら、玲依は目を閉じた。
胸の奥で、何かが小さく軋んだ気がした。
けれどその音は、すぐに聞こえなくなった。