そこにあったはずの愛
第三話 綻び
数日経っても、あの夜の言葉が耳の奥に残っていた。
なんでそんな条件にしたの。
ちゃんと付き合えば良かったじゃん。
彩奈に悪気はなかった。
ただの疑問だったのだろう。
それでも玲依の中で、その言葉だけが繰り返し響いていた。
デスクの上の書類に目を落としながら、思考だけが別の場所を漂う。
高校生の頃。
誰でも良かった。
好意も、恋も、そんなものは求めていなかった。
求められれば応じる。
それだけで良かった。
体を差し出すことに、意味なんて持たせなかった。
そうしていれば、何も感じずに済んだから。
その日々は、凛に出会うまで続いていた。
なのに。
なぜ、凛にだけは条件を出したのだろう。
私以外の女を抱かないって約束して。
そんな言葉が、するりと口から出た。
自分でも、驚くほど自然に。
そしてそれを、凛は受け入れた。
今更、その意味を考えている自分に気づく。
胸の奥が、微かに重い。
罪悪感、という言葉が浮かびかけて、玲依はそれを打ち消した。
そんな綺麗な名前で呼べるほどのものではない気がした。
ただ、据わりが悪かった。
自分がしてきたことの、輪郭がやけにはっきり見えてしまう。
ふと、別の疑問が差し込んだ。
凛は、本当に自分だけなのだろうか。
問いが浮かんだ瞬間、心臓が小さく跳ねた。
自分は、合鍵を渡している。
だから、他の誰かを部屋に連れ込むことはできない。
そうしないと決めているのではなく、物理的にできない。
けれど凛はどうだろう。
凛の部屋も、凛の生活も、玲依は何も知らない。
知っているのは、名前と、年齢と、通っている大学だけ。
凛はいつも、凛の都合でマンションへ来る。
抱いて、少し眠って、帰っていく。
その間、玲依は凛のことを何も聞かない。
聞けば、この関係の形が崩れる気がしていたから。
けれど今、その「聞かない」という選択が、急に危うく思えてきた。
信じている、とすら言えない。
ただ、疑わないようにしてきただけだったのかもしれない。
昼休み、届いたメッセージに既読をつける。
いつもの、軽い一言。
そこに嘘があるかどうかなど、玲依には確かめようがなかった。
答えの出ない問いを抱えたまま、玲依は画面をそっと伏せた。
窓の外は、変わらず晴れていた。
それが、少しだけ疎ましかった。
数日経っても、あの夜の言葉が耳の奥に残っていた。
なんでそんな条件にしたの。
ちゃんと付き合えば良かったじゃん。
彩奈に悪気はなかった。
ただの疑問だったのだろう。
それでも玲依の中で、その言葉だけが繰り返し響いていた。
デスクの上の書類に目を落としながら、思考だけが別の場所を漂う。
高校生の頃。
誰でも良かった。
好意も、恋も、そんなものは求めていなかった。
求められれば応じる。
それだけで良かった。
体を差し出すことに、意味なんて持たせなかった。
そうしていれば、何も感じずに済んだから。
その日々は、凛に出会うまで続いていた。
なのに。
なぜ、凛にだけは条件を出したのだろう。
私以外の女を抱かないって約束して。
そんな言葉が、するりと口から出た。
自分でも、驚くほど自然に。
そしてそれを、凛は受け入れた。
今更、その意味を考えている自分に気づく。
胸の奥が、微かに重い。
罪悪感、という言葉が浮かびかけて、玲依はそれを打ち消した。
そんな綺麗な名前で呼べるほどのものではない気がした。
ただ、据わりが悪かった。
自分がしてきたことの、輪郭がやけにはっきり見えてしまう。
ふと、別の疑問が差し込んだ。
凛は、本当に自分だけなのだろうか。
問いが浮かんだ瞬間、心臓が小さく跳ねた。
自分は、合鍵を渡している。
だから、他の誰かを部屋に連れ込むことはできない。
そうしないと決めているのではなく、物理的にできない。
けれど凛はどうだろう。
凛の部屋も、凛の生活も、玲依は何も知らない。
知っているのは、名前と、年齢と、通っている大学だけ。
凛はいつも、凛の都合でマンションへ来る。
抱いて、少し眠って、帰っていく。
その間、玲依は凛のことを何も聞かない。
聞けば、この関係の形が崩れる気がしていたから。
けれど今、その「聞かない」という選択が、急に危うく思えてきた。
信じている、とすら言えない。
ただ、疑わないようにしてきただけだったのかもしれない。
昼休み、届いたメッセージに既読をつける。
いつもの、軽い一言。
そこに嘘があるかどうかなど、玲依には確かめようがなかった。
答えの出ない問いを抱えたまま、玲依は画面をそっと伏せた。
窓の外は、変わらず晴れていた。
それが、少しだけ疎ましかった。