そこにあったはずの愛
第二十二話 緊張の裏側
待ち合わせ場所に向かう足取りは、我ながら重かった。
昨夜からずっと、頭の中で同じことを繰り返し考えていた。
もし、今日、大事な話をされたら。
もう終わりにしよう、と言われたら。
どんな顔をして、それを聞けばいいのか。
答えは、まだ出ていなかった。
――
雑踏の向こうに、玲依さんの姿が見えた瞬間。
胸の奥が、ぎゅっと締まった。
安堵と緊張が、同時に押し寄せてくる。
会えて嬉しい、という単純な感情と、これから何を告げられるか分からない、という恐怖。
そのふたつが、同じ場所でせめぎ合っていた。
「お、来た」
いつも通りの声を出そうとしたけど、うまく出せた自信はなかった。
歩み寄る足取りに、自分でも気づかないくらいの硬さが滲んでいたと思う。
――
食事の間、ずっと探っていた。
言葉の端々に、何か切り出そうとする気配がないか。
表情の変化に、覚悟を決めたような硬さがないか。
「なんでもいい」
そう言われた時、それすら深読みしてしまった。
なんでもいいってことは、もう、どうでもよくなってるってことなんじゃないか。
そんな考えが、頭の隅をよぎった。
自分でも、馬鹿げてると分かってた。
けど、止められなかった。
――
けど、会話は続いていった。
絵の話。
休みの日の話。
好きな食べ物や、苦手なものの話。
そのどれもが、拍子抜けするほど、当たり障りのないものだった。
大事な話をするつもりなら、こんな軽い話題を続けるはずがない。
そう思い始めたあたりから、少しずつ、身構えていたものが緩んでいくのが分かった。
「玲依さんは、休みの日何してんの」
そう聞いた自分の声が、いつもより少し柔らかくなっていた気がする。
聞き返された時の、少し困ったような顔。
その顔を見て、また胸の奥が緩んだ。
大丈夫なのかもしれない。
そう思い始めても、心のどこかには、まだ小さな棘が残っていた。
完全に安心しきれない自分が、確かにいた。
――
店を出て、夜の街を並んで歩き出した時。
さっきまでの緊張とは、また違う種類の緊張が、胸の奥に生まれ始めていた。
この関係を終わらせる話じゃなかったらしい。
その安堵は確かにあった。
けど、代わりに浮かんできたのは、もっと別の問いだった。
このまま、何もなく別れるのか。
三年間、玲依さんと会うことは、いつも体を重ねることと同じ意味だった。
会う理由が、それ以外にあったことなんて、一度もなかった。
なのに今夜、そのどちらでもない時間が、こんなにも長く続いている。
これは、何なんだろう。
考えても、答えは出なかった。
夜風が、少し冷たくなってきていた。
隣を歩く玲依さんの横顔を、凛はそっと盗み見た。
何を考えているのか、その表情からは読み取れなかった。
ただ、隣にいるという事実だけが、今はやけに大きな意味を持っている気がした。
街灯の灯りが、二人分の影を、長く前方に伸ばしていた。
待ち合わせ場所に向かう足取りは、我ながら重かった。
昨夜からずっと、頭の中で同じことを繰り返し考えていた。
もし、今日、大事な話をされたら。
もう終わりにしよう、と言われたら。
どんな顔をして、それを聞けばいいのか。
答えは、まだ出ていなかった。
――
雑踏の向こうに、玲依さんの姿が見えた瞬間。
胸の奥が、ぎゅっと締まった。
安堵と緊張が、同時に押し寄せてくる。
会えて嬉しい、という単純な感情と、これから何を告げられるか分からない、という恐怖。
そのふたつが、同じ場所でせめぎ合っていた。
「お、来た」
いつも通りの声を出そうとしたけど、うまく出せた自信はなかった。
歩み寄る足取りに、自分でも気づかないくらいの硬さが滲んでいたと思う。
――
食事の間、ずっと探っていた。
言葉の端々に、何か切り出そうとする気配がないか。
表情の変化に、覚悟を決めたような硬さがないか。
「なんでもいい」
そう言われた時、それすら深読みしてしまった。
なんでもいいってことは、もう、どうでもよくなってるってことなんじゃないか。
そんな考えが、頭の隅をよぎった。
自分でも、馬鹿げてると分かってた。
けど、止められなかった。
――
けど、会話は続いていった。
絵の話。
休みの日の話。
好きな食べ物や、苦手なものの話。
そのどれもが、拍子抜けするほど、当たり障りのないものだった。
大事な話をするつもりなら、こんな軽い話題を続けるはずがない。
そう思い始めたあたりから、少しずつ、身構えていたものが緩んでいくのが分かった。
「玲依さんは、休みの日何してんの」
そう聞いた自分の声が、いつもより少し柔らかくなっていた気がする。
聞き返された時の、少し困ったような顔。
その顔を見て、また胸の奥が緩んだ。
大丈夫なのかもしれない。
そう思い始めても、心のどこかには、まだ小さな棘が残っていた。
完全に安心しきれない自分が、確かにいた。
――
店を出て、夜の街を並んで歩き出した時。
さっきまでの緊張とは、また違う種類の緊張が、胸の奥に生まれ始めていた。
この関係を終わらせる話じゃなかったらしい。
その安堵は確かにあった。
けど、代わりに浮かんできたのは、もっと別の問いだった。
このまま、何もなく別れるのか。
三年間、玲依さんと会うことは、いつも体を重ねることと同じ意味だった。
会う理由が、それ以外にあったことなんて、一度もなかった。
なのに今夜、そのどちらでもない時間が、こんなにも長く続いている。
これは、何なんだろう。
考えても、答えは出なかった。
夜風が、少し冷たくなってきていた。
隣を歩く玲依さんの横顔を、凛はそっと盗み見た。
何を考えているのか、その表情からは読み取れなかった。
ただ、隣にいるという事実だけが、今はやけに大きな意味を持っている気がした。
街灯の灯りが、二人分の影を、長く前方に伸ばしていた。