そこにあったはずの愛
第四話 気づき
玄関のドアを開けると、いつものように明かりが漏れていた。
来てるんだ。
いつもと同じはずの一瞬に、今日は少しだけ間があった。
リビングに入ると、凛がこちらを振り返る。
「おかえり」
いつもの、軽い声。
玲依はそれに、いつも通りの相槌を返した。
けれど頭の中では、まだあの問いが渦巻いていた。
凛は、本当に自分だけなのだろうか。
答えの出ない問いを抱えたまま、玲依はソファに座る凛の隣に腰を下ろした。
自然な流れで、凛の手が伸びてくる。
いつも通りの、始まりだった。
体は、覚えている通りに応じていく。
けれど、どこか遠かった。
まるで自分の体を、少し離れた場所から眺めているような感覚。
彩奈の言葉が、頭の隅で繰り返される。
なんでそんな条件にしたの。
ちゃんと付き合えば良かったじゃん。
凛の部屋も、凛の生活も、玲依は何も知らない。
知らないまま、ここまで来てしまった。
その事実が、今更のように重くのしかかる。
応じているはずなのに、心だけがどこか別の場所にあった。
「玲依さん」
名前を呼ばれて、我に返る。
凛の手が、止まっていた。
「……どうかした?」
いつもなら聞かないことを、凛が聞いていた。
三年間、一度も踏み込んでこなかった距離だった。
玲依は、自分がどんな顔をしていたのか分からなかった。
上の空だったことに、今、初めて気づいた。
「何でもない」
そう答えるので、精一杯だった。
凛は、しばらく玲依の顔を見つめていた。
いつもの軽さが、少しだけ消えている。
何かを言いかけて、けれど飲み込んだようだった。
「そっか」
短く返し、凛はまた手を伸ばしてくる。
けれど、さっきまでとは何かが違っていた。
触れ方が、少しだけ、丁寧になっていた。
玲依はそれに気づかないふりをした。
気づいてしまえば、この関係の形が崩れる気がした。
夜が更けても、凛の「どうかした?」という声だけが、耳の奥に残っていた。
いつもと同じ夜のはずなのに。
何かが、確かに変わり始めていた。
玄関のドアを開けると、いつものように明かりが漏れていた。
来てるんだ。
いつもと同じはずの一瞬に、今日は少しだけ間があった。
リビングに入ると、凛がこちらを振り返る。
「おかえり」
いつもの、軽い声。
玲依はそれに、いつも通りの相槌を返した。
けれど頭の中では、まだあの問いが渦巻いていた。
凛は、本当に自分だけなのだろうか。
答えの出ない問いを抱えたまま、玲依はソファに座る凛の隣に腰を下ろした。
自然な流れで、凛の手が伸びてくる。
いつも通りの、始まりだった。
体は、覚えている通りに応じていく。
けれど、どこか遠かった。
まるで自分の体を、少し離れた場所から眺めているような感覚。
彩奈の言葉が、頭の隅で繰り返される。
なんでそんな条件にしたの。
ちゃんと付き合えば良かったじゃん。
凛の部屋も、凛の生活も、玲依は何も知らない。
知らないまま、ここまで来てしまった。
その事実が、今更のように重くのしかかる。
応じているはずなのに、心だけがどこか別の場所にあった。
「玲依さん」
名前を呼ばれて、我に返る。
凛の手が、止まっていた。
「……どうかした?」
いつもなら聞かないことを、凛が聞いていた。
三年間、一度も踏み込んでこなかった距離だった。
玲依は、自分がどんな顔をしていたのか分からなかった。
上の空だったことに、今、初めて気づいた。
「何でもない」
そう答えるので、精一杯だった。
凛は、しばらく玲依の顔を見つめていた。
いつもの軽さが、少しだけ消えている。
何かを言いかけて、けれど飲み込んだようだった。
「そっか」
短く返し、凛はまた手を伸ばしてくる。
けれど、さっきまでとは何かが違っていた。
触れ方が、少しだけ、丁寧になっていた。
玲依はそれに気づかないふりをした。
気づいてしまえば、この関係の形が崩れる気がした。
夜が更けても、凛の「どうかした?」という声だけが、耳の奥に残っていた。
いつもと同じ夜のはずなのに。
何かが、確かに変わり始めていた。