そこにあったはずの愛
第五話 戸惑い
いつも通りの朝が来た。
いつも通り身支度を整え、いつも通り出社する。
何も変わっていない、はずだった。
けれど、書類に目を通していても、ふとした瞬間に思考が途切れる。
「どうかした?」
あの一言が、耳の奥に張り付いたまま離れなかった。
三年間、一度も踏み込んでこなかった距離だった。
凛は、いつも玲依の求める分だけを与えてくれた。
それ以上は、望まなかった。
だから、心地よかった。
なのに、あの夜。
凛の手が止まり、名前を呼ばれた瞬間。
何かが、確かに違っていた。
心配、という言葉が浮かびかけて、玲依はすぐにそれを打ち消した。
心配されることに、慣れていない。
されて嬉しいのか、居心地が悪いのか、自分でもよく分からなかった。
昼休み、スマートフォンが震える。
画面に浮かんだ、たった一文字。
「R」
いつもなら、すぐに開く。
けれど今日は、しばらく画面を見つめたまま、指が動かなかった。
会いたいのか、会いたくないのか。
そのどちらでもない感情が、胸の奥で渦を巻いていた。
結局、返信は夜まで放置した。
自分でも、理由が分からなかった。
踏み込まれたくないのか。
それとも、踏み込まれたことが、思いのほか嬉しかったのか。
その両方かもしれないと思うと、余計に始末が悪かった。
今まで、凛に何かを期待したことなどなかった。
期待しなければ、失うこともない。
そうやって、三年間を過ごしてきたはずだった。
けれど、期待していなかったことにすら、今初めて気づいてしまった。
この関係は、思っていたものと違うのかもしれない。
そんな予感が、静かに胸の底に落ちてきた。
認めたくなかった。
認めてしまえば、もう今までの自分ではいられない気がした。
夜、ベッドに横たわりながら、玲依は画面をもう一度開いた。
昼間の「R」の文字は、まだそこにあった。
返事を打とうとして、指を止める。
何と書けばいいのか、分からなかった。
結局、画面を閉じた。
答えの出ないまま、玲依は目を閉じた。
眠りは、なかなか訪れなかった。
いつも通りの朝が来た。
いつも通り身支度を整え、いつも通り出社する。
何も変わっていない、はずだった。
けれど、書類に目を通していても、ふとした瞬間に思考が途切れる。
「どうかした?」
あの一言が、耳の奥に張り付いたまま離れなかった。
三年間、一度も踏み込んでこなかった距離だった。
凛は、いつも玲依の求める分だけを与えてくれた。
それ以上は、望まなかった。
だから、心地よかった。
なのに、あの夜。
凛の手が止まり、名前を呼ばれた瞬間。
何かが、確かに違っていた。
心配、という言葉が浮かびかけて、玲依はすぐにそれを打ち消した。
心配されることに、慣れていない。
されて嬉しいのか、居心地が悪いのか、自分でもよく分からなかった。
昼休み、スマートフォンが震える。
画面に浮かんだ、たった一文字。
「R」
いつもなら、すぐに開く。
けれど今日は、しばらく画面を見つめたまま、指が動かなかった。
会いたいのか、会いたくないのか。
そのどちらでもない感情が、胸の奥で渦を巻いていた。
結局、返信は夜まで放置した。
自分でも、理由が分からなかった。
踏み込まれたくないのか。
それとも、踏み込まれたことが、思いのほか嬉しかったのか。
その両方かもしれないと思うと、余計に始末が悪かった。
今まで、凛に何かを期待したことなどなかった。
期待しなければ、失うこともない。
そうやって、三年間を過ごしてきたはずだった。
けれど、期待していなかったことにすら、今初めて気づいてしまった。
この関係は、思っていたものと違うのかもしれない。
そんな予感が、静かに胸の底に落ちてきた。
認めたくなかった。
認めてしまえば、もう今までの自分ではいられない気がした。
夜、ベッドに横たわりながら、玲依は画面をもう一度開いた。
昼間の「R」の文字は、まだそこにあった。
返事を打とうとして、指を止める。
何と書けばいいのか、分からなかった。
結局、画面を閉じた。
答えの出ないまま、玲依は目を閉じた。
眠りは、なかなか訪れなかった。