そこにあったはずの愛
第四十話 隠しきれない
昼休み、社員食堂の隅の席。
いつもと変わらない、彩奈との昼食の時間だった。
――
「ねえ」
彩奈が、フォークを止めて、じっと玲依を見た。
「何」
玲依は、視線を上げずに答えた。
――
「なんか、最近さ」
彩奈が、探るように言葉を続ける。
「雰囲気、変わったよね」
――
心臓が、小さく跳ねた。
けれど、玲依は表情を崩さずに、コーヒーに口をつけた。
「そう?」
「そうだよ」
彩奈は、確信を持った声で頷いた。
「前は、こう、隙がないっていうか。近寄りがたい感じだったのに」
「最近、なんか、丸くなった」
――
玲依は、答えに詰まった。
否定する言葉が、うまく出てこなかった。
自覚がないわけではなかった。
ただ、それを他人に指摘されたのは、初めてのことだった。
――
彩奈は、しばらく玲依の顔を、じっと観察していた。
やがて、口元に、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
――
「あの子と、何かあった?」
――
その一言に、玲依の手が、コーヒーカップの上で、一瞬止まった。
視線が、泳いだ。
否定しようとした言葉が、喉の奥で、うまく形を成さなかった。
――
彩奈は、その反応だけで、十分だというように、小さく笑った。
「その顔、答えみたいなもんじゃん」
――
「……何も、言ってない」
玲依は、かろうじて、そう返した。
我ながら、説得力のない一言だった。
――
「言わなくても、分かるよ」
彩奈は、フォークを置いて、テーブルに肘をついた。
「玲依、前より、笑うようになった」
「スマホ見て、勝手に頬緩めてるし」
「退勤時間、前より気にするようになったし」
――
一つ一つ挙げられるたびに、玲依の頬が、じわりと熱を持っていった。
自分では気づいていないつもりだった変化を、こんなにも細かく見られていたことが、恥ずかしくて仕方なかった。
――
「見すぎ」
玲依は、目を逸らしながら、そう呟いた。
「見てなくても分かるくらい、分かりやすいの」
彩奈が、からかうように返す。
――
沈黙が、しばらく続いた。
玲依は、諦めたように、小さく息を吐いた。
――
「……何か、あったのかもしれない」
小さな声だった。
けれど、認めた瞬間、胸の奥が、不思議と軽くなった。
――
彩奈の顔が、ぱっと明るくなった。
「やっぱり!」
「良かったじゃん、本当に」
――
その声には、からかいだけではない、心からの喜びがあった。
「前に、言ったことあったよね」
彩奈が、少し声のトーンを落として続けた。
「ちゃんと付き合えば良かったじゃん、って」
――
玲依は、その言葉に、静かに目を伏せた。
あの一言が、自分の中で、どれほど長い時間をかけて、静かに根を張っていったか。
彩奈は、まだ知らない。
――
「あの時、玲依、全然聞いてないって顔してたのに」
彩奈が、少し得意げに笑った。
「ちゃんと届いてたんだ」
――
「……別に、あなたのおかげとは、言ってない」
玲依は、そう返しながらも、口元が、自然と緩んでいくのを止められなかった。
――
「はいはい」
彩奈は、楽しそうに笑いながら、また食事に戻った。
けれど、その笑顔の端には、確かな安堵が滲んでいた。
――
昼休みの喧騒の中、玲依は、自分の変化を、初めて誰かに見つけてもらえたという事実を、静かに噛み締めていた。
隠しているつもりでも、隠しきれないものがあるのだと、玲依は、今日、初めて知った。
昼休み、社員食堂の隅の席。
いつもと変わらない、彩奈との昼食の時間だった。
――
「ねえ」
彩奈が、フォークを止めて、じっと玲依を見た。
「何」
玲依は、視線を上げずに答えた。
――
「なんか、最近さ」
彩奈が、探るように言葉を続ける。
「雰囲気、変わったよね」
――
心臓が、小さく跳ねた。
けれど、玲依は表情を崩さずに、コーヒーに口をつけた。
「そう?」
「そうだよ」
彩奈は、確信を持った声で頷いた。
「前は、こう、隙がないっていうか。近寄りがたい感じだったのに」
「最近、なんか、丸くなった」
――
玲依は、答えに詰まった。
否定する言葉が、うまく出てこなかった。
自覚がないわけではなかった。
ただ、それを他人に指摘されたのは、初めてのことだった。
――
彩奈は、しばらく玲依の顔を、じっと観察していた。
やがて、口元に、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
――
「あの子と、何かあった?」
――
その一言に、玲依の手が、コーヒーカップの上で、一瞬止まった。
視線が、泳いだ。
否定しようとした言葉が、喉の奥で、うまく形を成さなかった。
――
彩奈は、その反応だけで、十分だというように、小さく笑った。
「その顔、答えみたいなもんじゃん」
――
「……何も、言ってない」
玲依は、かろうじて、そう返した。
我ながら、説得力のない一言だった。
――
「言わなくても、分かるよ」
彩奈は、フォークを置いて、テーブルに肘をついた。
「玲依、前より、笑うようになった」
「スマホ見て、勝手に頬緩めてるし」
「退勤時間、前より気にするようになったし」
――
一つ一つ挙げられるたびに、玲依の頬が、じわりと熱を持っていった。
自分では気づいていないつもりだった変化を、こんなにも細かく見られていたことが、恥ずかしくて仕方なかった。
――
「見すぎ」
玲依は、目を逸らしながら、そう呟いた。
「見てなくても分かるくらい、分かりやすいの」
彩奈が、からかうように返す。
――
沈黙が、しばらく続いた。
玲依は、諦めたように、小さく息を吐いた。
――
「……何か、あったのかもしれない」
小さな声だった。
けれど、認めた瞬間、胸の奥が、不思議と軽くなった。
――
彩奈の顔が、ぱっと明るくなった。
「やっぱり!」
「良かったじゃん、本当に」
――
その声には、からかいだけではない、心からの喜びがあった。
「前に、言ったことあったよね」
彩奈が、少し声のトーンを落として続けた。
「ちゃんと付き合えば良かったじゃん、って」
――
玲依は、その言葉に、静かに目を伏せた。
あの一言が、自分の中で、どれほど長い時間をかけて、静かに根を張っていったか。
彩奈は、まだ知らない。
――
「あの時、玲依、全然聞いてないって顔してたのに」
彩奈が、少し得意げに笑った。
「ちゃんと届いてたんだ」
――
「……別に、あなたのおかげとは、言ってない」
玲依は、そう返しながらも、口元が、自然と緩んでいくのを止められなかった。
――
「はいはい」
彩奈は、楽しそうに笑いながら、また食事に戻った。
けれど、その笑顔の端には、確かな安堵が滲んでいた。
――
昼休みの喧騒の中、玲依は、自分の変化を、初めて誰かに見つけてもらえたという事実を、静かに噛み締めていた。
隠しているつもりでも、隠しきれないものがあるのだと、玲依は、今日、初めて知った。