そこにあったはずの愛
第六話 既読のない夜

昨日のことが、まだ頭に残っていた。

「どうかした?」

自分でも、なんであんなこと聞いたのか分からない。

三年間、聞かないようにしてきたことだった。

昼過ぎ、スマホを手に取る。

いつも通り、送ればいいだけだ。

「今日行っていい?」

指がそこで、少しだけ止まった。

らしくないな、と自分でも思う。

けれど結局、いつもと同じ一言を送った。

送信した後も、なんとなくスマホを手放せなかった。

こんなこと、今までなかったのに。

――

昼休みが終わっても、既読はつかなかった。

忙しいんだろう。

秘書ってのは、そういう仕事だって聞いてる。

そう自分に言い聞かせても、なぜか落ち着かなかった。

バイトの合間、ポケットの中のスマホが気になって仕方ない。

こんな自分は、知らなかった。

――

昔から、深く踏み込まないようにしてきた。

名前と、年齢と、通ってる会社。

それだけ知っていれば、十分だと思っていた。

本当はどんな人なのかとか、家族のこととか、聞かれたこともないし、聞いたこともない。

そういう距離感が、心地よかったはずだった。

最初は、金づるになればいいと思ってた。

金持ちそうな女だから、良い金づるになるかもって、こっちから声をかけた。

けど、三年経っても、一度もそんな話にはならなかった。

いつの間にか、金のことなんてどうでも良くなってた。

代わりに、格好つけたくなった。

みすぼらしい自分を、見せたくなくなった。

そんな見栄、いつから張るようになったんだろう。

自分でもよく分からない。

ただ、昨日のあの一瞬。

玲依さんの目が、どこか遠くを見ていた瞬間。

胸の奥が、ぎゅっとなった。

それが何なのか、分からないまま気づけば名前を呼んでいた。

――

夜になっても、既読はつかなかった。

こんなの、初めてだった。

何かあったんだろうか。

それとも、避けられてるんだろうか。

普段なら考えもしないことを、何度も考えてしまう。

スマホの画面を、何度も点けては消した。

自分がどうしてこんなに気にしてるのか、分からなかった。

分からないふりを、してきただけなのかもしれない。

天井を見上げて、小さく笑う。

「らしくねぇ」

声に出しても、誰も聞いていない部屋だった。

それでも、スマホを手放すことは、最後までできなかった。
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