そこにあったはずの愛
第五十八話 確かめるように
玄関のドアを開けると、凛が、すぐそこに立っていた。
「おかえり」
いつもの、柔らかい声だった。
けれど、玲依が答えるより先に、凛の腕が、強く伸びてきた。
抱き寄せられる。
いつもより、明らかに、強い力だった。
「……ただいま」
戸惑いながらも、玲依は、その腕の中で、そう答えた。
凛の胸に、顔が埋まる。
いつもの匂いがした。
けれど、抱きしめる腕の強さだけが、いつもと違っていた。
――
「二日間、長かった」
耳元で、掠れた声がした。
「そんなに?」
「うん。すごく」
その一言に、含まれた重さを、玲依は、まだ、うまく掴めずにいた。
けれど、凛の体温が、いつもより、熱を帯びていることだけは、はっきりと感じ取れた。
玄関先で、唇が重なる。
いつもより、性急な口づけだった。
角度を変えながら、深く、求めるように。
「……凛」
呼吸の合間に、名前を呼ぶ。
けれど、それに応える余裕さえ、凛にはないようだった。
体が、抱え上げられる。
部屋の奥へと、運ばれていく間も、唇は、離れなかった。
――
ベッドに、押し倒される。
見下ろす凛の目に、これまで見たことのない、切実な色が浮かんでいた。
「玲依さん」
名前を呼ぶ声が、震えていた。
「うん」
「ちゃんと、ここにいる?」
その問いに、玲依は、一瞬、言葉を失った。
「いるよ」
そう答えると、凛は、確かめるように、玲依の頬に、そっと触れた。
けれど、その手つきとは裏腹に、次の瞬間には、また、性急な熱が戻ってきた。
服が、乱雑に脱がされていく。
いつもなら、もっと丁寧に、時間をかけて確かめ合うはずの過程が、今夜は、性急な熱に押し流されていた。
肌が、重なる。
触れる手のひらが、いつもより、強く、玲依の体に食い込んだ。
「痛っ」
思わず、玲依が、そう漏らす。
「ごめん、止められない」
凛の声が、掠れていた。
動きは、止まらなかった。
けれど、玲依を抱きしめる腕にだけ、労わるような優しさが、微かに滲んでいた。
「いいよ、続けて」
玲依は、そう言いながら、凛の背中に、強く、手を回した。
抱き寄せるように、引き寄せる。
その言葉に、凛の目が、微かに揺れた。
そして、また、動きが、性急さを取り戻していく。
――
肌と肌が、繰り返し、確かめ合うように、重なった。
いつもの甘さとは違う、切実さを帯びた交わり。
まるで、玲依の存在を、その手のひらで、何度も確認しているようだった。
「凛」
呼吸の合間、玲依が、その名を呼ぶたびに、凛の動きが、僅かに、揺らいだ。
「玲依さん」
「もっと」
短い言葉のやり取りだけが、二人の間に、繰り返された。
重なる体温の中で、玲依は、次第に、凛の激しさの理由を、はっきりと感じ取っていった。
これは、ただの欲望ではなかった。
不安を、体で、埋めようとしている。
言葉にできなかった二日間の孤独。
想像するしかなかった、玲依の知らない時間。
その全てを、今、この激しさで、確かめようとしているのだと、玲依は、理解した。
だから、玲依は、何も聞かなかった。
問いただすことも、しなかった。
ただ、その激しさを、そのまま、受け止めた。
肌が、汗ばみ、体温が、混じり合っていく。
言葉よりも、雄弁な何かが、二人の間を、満たしていった。
――
やがて、波が、頂点へと押し上げられる。
「凛」
「玲依さん」
互いの名前を呼び合いながら、二人は、同時に、その頂を、迎えた。
荒い呼吸だけが、しばらく、部屋の中に響いていた。
汗ばんだ体を、玲依の隣に、凛が、そっと横たえる。
さっきまでの性急さが嘘のように、その手つきは、今度は、驚くほど優しかった。
「ごめん、乱暴だった」
凛が、玲依の髪を、指で梳きながら、そう呟いた。
「ううん」
玲依は、その胸に、頬を寄せた。
「昨日から、ずっと、不安だった?」
そっと、尋ねてみる。
凛は、少しの間、黙っていた。
「……うん」
小さな声だった。
「疑ってたわけじゃない。ただ、想像するしかできなくて」
その言葉に、玲依の胸が、締め付けられた。
「ちゃんと、帰ってきたよ」
玲依は、凛の手を、そっと握った。
「ここにいる」
「うん」
凛は、その手を、強く、握り返した。
しばらく、言葉のない時間が続いた。
けれど、その沈黙は、心地よかった。
――
窓の外、夜が、静かに更けていく。
激しかった時間の後に訪れた、この穏やかさこそが、玲依にとって、何よりも大切なものだった。
けれど、玲依の中には、今夜の激しさの記憶が、確かな余韻として残っていた。
凛は、思っていた以上に、多くを、一人で抱え込んでいたのかもしれない。
その事実に、玲依は、静かに、思いを馳せていた。
玄関のドアを開けると、凛が、すぐそこに立っていた。
「おかえり」
いつもの、柔らかい声だった。
けれど、玲依が答えるより先に、凛の腕が、強く伸びてきた。
抱き寄せられる。
いつもより、明らかに、強い力だった。
「……ただいま」
戸惑いながらも、玲依は、その腕の中で、そう答えた。
凛の胸に、顔が埋まる。
いつもの匂いがした。
けれど、抱きしめる腕の強さだけが、いつもと違っていた。
――
「二日間、長かった」
耳元で、掠れた声がした。
「そんなに?」
「うん。すごく」
その一言に、含まれた重さを、玲依は、まだ、うまく掴めずにいた。
けれど、凛の体温が、いつもより、熱を帯びていることだけは、はっきりと感じ取れた。
玄関先で、唇が重なる。
いつもより、性急な口づけだった。
角度を変えながら、深く、求めるように。
「……凛」
呼吸の合間に、名前を呼ぶ。
けれど、それに応える余裕さえ、凛にはないようだった。
体が、抱え上げられる。
部屋の奥へと、運ばれていく間も、唇は、離れなかった。
――
ベッドに、押し倒される。
見下ろす凛の目に、これまで見たことのない、切実な色が浮かんでいた。
「玲依さん」
名前を呼ぶ声が、震えていた。
「うん」
「ちゃんと、ここにいる?」
その問いに、玲依は、一瞬、言葉を失った。
「いるよ」
そう答えると、凛は、確かめるように、玲依の頬に、そっと触れた。
けれど、その手つきとは裏腹に、次の瞬間には、また、性急な熱が戻ってきた。
服が、乱雑に脱がされていく。
いつもなら、もっと丁寧に、時間をかけて確かめ合うはずの過程が、今夜は、性急な熱に押し流されていた。
肌が、重なる。
触れる手のひらが、いつもより、強く、玲依の体に食い込んだ。
「痛っ」
思わず、玲依が、そう漏らす。
「ごめん、止められない」
凛の声が、掠れていた。
動きは、止まらなかった。
けれど、玲依を抱きしめる腕にだけ、労わるような優しさが、微かに滲んでいた。
「いいよ、続けて」
玲依は、そう言いながら、凛の背中に、強く、手を回した。
抱き寄せるように、引き寄せる。
その言葉に、凛の目が、微かに揺れた。
そして、また、動きが、性急さを取り戻していく。
――
肌と肌が、繰り返し、確かめ合うように、重なった。
いつもの甘さとは違う、切実さを帯びた交わり。
まるで、玲依の存在を、その手のひらで、何度も確認しているようだった。
「凛」
呼吸の合間、玲依が、その名を呼ぶたびに、凛の動きが、僅かに、揺らいだ。
「玲依さん」
「もっと」
短い言葉のやり取りだけが、二人の間に、繰り返された。
重なる体温の中で、玲依は、次第に、凛の激しさの理由を、はっきりと感じ取っていった。
これは、ただの欲望ではなかった。
不安を、体で、埋めようとしている。
言葉にできなかった二日間の孤独。
想像するしかなかった、玲依の知らない時間。
その全てを、今、この激しさで、確かめようとしているのだと、玲依は、理解した。
だから、玲依は、何も聞かなかった。
問いただすことも、しなかった。
ただ、その激しさを、そのまま、受け止めた。
肌が、汗ばみ、体温が、混じり合っていく。
言葉よりも、雄弁な何かが、二人の間を、満たしていった。
――
やがて、波が、頂点へと押し上げられる。
「凛」
「玲依さん」
互いの名前を呼び合いながら、二人は、同時に、その頂を、迎えた。
荒い呼吸だけが、しばらく、部屋の中に響いていた。
汗ばんだ体を、玲依の隣に、凛が、そっと横たえる。
さっきまでの性急さが嘘のように、その手つきは、今度は、驚くほど優しかった。
「ごめん、乱暴だった」
凛が、玲依の髪を、指で梳きながら、そう呟いた。
「ううん」
玲依は、その胸に、頬を寄せた。
「昨日から、ずっと、不安だった?」
そっと、尋ねてみる。
凛は、少しの間、黙っていた。
「……うん」
小さな声だった。
「疑ってたわけじゃない。ただ、想像するしかできなくて」
その言葉に、玲依の胸が、締め付けられた。
「ちゃんと、帰ってきたよ」
玲依は、凛の手を、そっと握った。
「ここにいる」
「うん」
凛は、その手を、強く、握り返した。
しばらく、言葉のない時間が続いた。
けれど、その沈黙は、心地よかった。
――
窓の外、夜が、静かに更けていく。
激しかった時間の後に訪れた、この穏やかさこそが、玲依にとって、何よりも大切なものだった。
けれど、玲依の中には、今夜の激しさの記憶が、確かな余韻として残っていた。
凛は、思っていた以上に、多くを、一人で抱え込んでいたのかもしれない。
その事実に、玲依は、静かに、思いを馳せていた。