そこにあったはずの愛
第七十六話 最後の男
抱きしめられたまま、どちらからともなく唇が重なった。
三年前から、何度も繰り返してきたはずの口づけだった。
けれど今夜は、これまでのどれとも違う質を持っていた。
凛の腕が玲依の背を強く抱き寄せる。
逃げ場を塞ぐように、体が近づいていく。
服の上から伝わる体温が、少しずつ熱を帯びていった。
――
ベッドへと、二人の体がなだれ込む。
影が重なり、凛の輪郭が玲依の視界いっぱいに広がった。
指先が頬の輪郭を、確かめるように這う。
そのまま、うなじへと滑り落ちていく。
触れるか触れないか、ぎりぎりの強さで。
その焦れったさに、玲依の呼吸が浅く乱れていった。
鎖骨に、耳元に、凛の吐息がかかる。
甘く掠れた息遣い。
肌が、じわりと熱を持っていく。
これまで何度も重ねてきたはずの距離が、今夜はいつもより、少しだけ逃れられないものに感じられた。
――
高まっていく熱の中、玲依はふと口を開いた。
「凛って」
息の合間、掠れた声で、そう続ける。
「私が、初めての相手だよね」
――
凛の動きが、一瞬止まった。
見下ろす目に、驚きと、それから微かな苦笑が浮かぶ。
「玲依さんは、違うだろうけどね」
そう言った声に、僅かな翳りが滲んでいた。
「けど、俺が最後の男になれて、良かったよ」
――
その一言の後、凛の動きに再び熱が戻ってくる。
けれど、その熱は先ほどまでより、少しだけ強引さを増していた。
指先の力、引き寄せる腕の強さ、そのどれもが、いつもより余裕を欠いていた。
玲依の体を確かめるように、隅々まで辿っていく手のひら。
まるで玲依のこれまでの記憶を、今この瞬間で上書きしようとしているような、そんな激しさだった。
玲依は、その熱に、ただ身を委ねた。
甘い吐息と掠れた声だけが、部屋に繰り返し響いていった。
――
やがて波が過ぎ去り、二人は荒い呼吸のまま並んで横たわった。
汗ばんだ体を、凛がそっと引き寄せる。
「ねえ」
凛が、天井を見上げながらそう切り出した。
「どうして、急に、あんなこと、言い出したの」
――
玲依は、凛の胸に頬を寄せながら、小さく笑った。
「私、それも嬉しかったんだ」
「あの最初の夜、遊んでる風を装ってたあなたの手が、ずっと震えてた」
「きっと、私が初めてなんだろうなって、分かったから」
――
その告白に、凛は少し目を見開いた。
「知ってたんだ」
「うん」
玲依は頷いた。
「その震えが、なんだか愛おしくて」
「俺も」
凛が静かに続けた。
「分かってたよ。玲依さん、手慣れてるなって」
「けど」
一拍置いて、続ける。
「条件、飲んだ時。俺が、最後の男になろうって、決めたんだ」
――
その言葉に、玲依の胸が、じんと熱くなった。
三年前、まだ何も知らなかったはずの、あの夜。
言葉にしないまま、互いに何かを感じ取っていた。
その事実が、今ようやく、二人の間で答え合わせされていた。
「最後の男、か」
玲依は、その言葉を噛み締めるように繰り返した。
「うん」
凛が、玲依の髪を指でそっと梳いた。
「これからも、ずっと、そのつもりだから」
――
窓の外、夜が静かに更けていく。
その暗闇の中で、二人の体温だけが確かな熱として、寄り添い合っていた。
抱きしめられたまま、どちらからともなく唇が重なった。
三年前から、何度も繰り返してきたはずの口づけだった。
けれど今夜は、これまでのどれとも違う質を持っていた。
凛の腕が玲依の背を強く抱き寄せる。
逃げ場を塞ぐように、体が近づいていく。
服の上から伝わる体温が、少しずつ熱を帯びていった。
――
ベッドへと、二人の体がなだれ込む。
影が重なり、凛の輪郭が玲依の視界いっぱいに広がった。
指先が頬の輪郭を、確かめるように這う。
そのまま、うなじへと滑り落ちていく。
触れるか触れないか、ぎりぎりの強さで。
その焦れったさに、玲依の呼吸が浅く乱れていった。
鎖骨に、耳元に、凛の吐息がかかる。
甘く掠れた息遣い。
肌が、じわりと熱を持っていく。
これまで何度も重ねてきたはずの距離が、今夜はいつもより、少しだけ逃れられないものに感じられた。
――
高まっていく熱の中、玲依はふと口を開いた。
「凛って」
息の合間、掠れた声で、そう続ける。
「私が、初めての相手だよね」
――
凛の動きが、一瞬止まった。
見下ろす目に、驚きと、それから微かな苦笑が浮かぶ。
「玲依さんは、違うだろうけどね」
そう言った声に、僅かな翳りが滲んでいた。
「けど、俺が最後の男になれて、良かったよ」
――
その一言の後、凛の動きに再び熱が戻ってくる。
けれど、その熱は先ほどまでより、少しだけ強引さを増していた。
指先の力、引き寄せる腕の強さ、そのどれもが、いつもより余裕を欠いていた。
玲依の体を確かめるように、隅々まで辿っていく手のひら。
まるで玲依のこれまでの記憶を、今この瞬間で上書きしようとしているような、そんな激しさだった。
玲依は、その熱に、ただ身を委ねた。
甘い吐息と掠れた声だけが、部屋に繰り返し響いていった。
――
やがて波が過ぎ去り、二人は荒い呼吸のまま並んで横たわった。
汗ばんだ体を、凛がそっと引き寄せる。
「ねえ」
凛が、天井を見上げながらそう切り出した。
「どうして、急に、あんなこと、言い出したの」
――
玲依は、凛の胸に頬を寄せながら、小さく笑った。
「私、それも嬉しかったんだ」
「あの最初の夜、遊んでる風を装ってたあなたの手が、ずっと震えてた」
「きっと、私が初めてなんだろうなって、分かったから」
――
その告白に、凛は少し目を見開いた。
「知ってたんだ」
「うん」
玲依は頷いた。
「その震えが、なんだか愛おしくて」
「俺も」
凛が静かに続けた。
「分かってたよ。玲依さん、手慣れてるなって」
「けど」
一拍置いて、続ける。
「条件、飲んだ時。俺が、最後の男になろうって、決めたんだ」
――
その言葉に、玲依の胸が、じんと熱くなった。
三年前、まだ何も知らなかったはずの、あの夜。
言葉にしないまま、互いに何かを感じ取っていた。
その事実が、今ようやく、二人の間で答え合わせされていた。
「最後の男、か」
玲依は、その言葉を噛み締めるように繰り返した。
「うん」
凛が、玲依の髪を指でそっと梳いた。
「これからも、ずっと、そのつもりだから」
――
窓の外、夜が静かに更けていく。
その暗闇の中で、二人の体温だけが確かな熱として、寄り添い合っていた。