そこにあったはずの愛
第八十五話 ぶつけた、本音
インターホンが鳴ったのは、休日の昼下がりだった。
玲依が、画面を確認すると、そこに映っていたのは、結依だった。
頻繁に実家へ通うようになってから、この部屋の住所を、結依に教えていた。
けれど、こうして、突然、訪ねてくるのは、初めてのことだった。
玲依は、少し驚きながらも、ドアを開けた。
「どうしたの、急に」
結依は、何も答えず、玄関先に立ったまま、俯いていた。
その様子に、玲依は、ただならぬ気配を感じた。
「結依?」
「……上がって、いい?」
「うん、もちろん」
玲依は、結依を、部屋の中へと招き入れた。
いつもの、屈託のない笑顔は、どこにもなかった。
結依は、リビングのソファに、俯いたまま腰を下ろした。
玲依も、少し離れた場所に座る。
しばらく、沈黙が続いた。
「どうしたの、改まって」
玲依が、そっと切り出した。
結依は、しばらく俯いたまま動かなかった。
やがて、絞り出すように口を開いた。
「この間、大学で、見たの」
「え?」
「お姉ちゃんが、彼氏さんに、忘れ物、届けてるところ」
玲依の心臓が、大きく跳ねた。
「あの、大学って」
「うん」
結依は顔を上げた。
その目には、涙が滲んでいた。
「その人、私が、好きだった人だった」
その一言に、玲依は完全に言葉を失った。
「オープンキャンパスで、絵、描いてるところ見て。一目惚れして」
結依の声が、震え始めていた。
「彼女がいるって、断られて。それでも、諦めきれなくて」
「大学まで、何度も、通って」
玲依は、何も言葉を返せなかった。
これまで、結依から恋の話は聞いていた。
けれど、その相手が、まさか凛だとは、想像もしていなかった。
「どうして、教えてくれなかったの」
結依の声が、次第に大きくなっていく。
「彼氏がいるって、それだけしか、言ってくれなくて」
「知らずに、大学まで行って、告白して」
「わたし、バカみたいっ」
その叫びが、部屋に響いた。
結依の目から、涙が堰を切ったように溢れ出した。
「ごめん」
玲依は、ようやくそう口にした。
「本当に、知らなかった。あなたが、そんな気持ちを抱えてたなんて」
「知らなかったで、済む話?」
結依が、涙を拭いながら、玲依をまっすぐに見つめた。
「お姉ちゃん、いつも、そう。私に、大事なこと、何も話してくれない」
その言葉に、玲依は胸を突かれた。
「隠すつもりじゃ、なかった」
玲依は、言葉を選びながら続けた。
「凛のことは、まだ、誰にも詳しく話してなくて」
「あなたにも、いつか、ちゃんと紹介したいと思ってた」
「いつかって、いつも、そうやって後回しにするじゃん」
結依の声には、これまで玲依が一度も聞いたことのない強さがあった。
「私、ずっと、お姉ちゃんに憧れてた」
「ああいうお姉ちゃんになりたいって、ずっと思ってきた」
「なのに、私のこと、本当は、どう思ってるのか、全然分からない」
その言葉に、玲依は静かに目を伏せた。
これまで家族に対して、どこか一歩引いた態度を取り続けてきた自覚があった。
けれど、それが、結依を、こんなにも傷つけていたとは、思ってもみなかった。
「ごめんね」
――
「もういいよっ!」
結依が、玲依の言葉を、遮るように叫んだ。
涙を拭う間もなく、立ち上がる。
「結依」
「もう、いい」
結依は、そう繰り返しながら、鞄を掴み、玄関へと駆け出していった。
「待って」
玲依が、腰を浮かせる。
けれど、その声が届く前に、玄関のドアが、勢いよく閉まる音がした。
一人、リビングに取り残された玲依は、しばらく、その場から動けなかった。
インターホンが鳴ったのは、休日の昼下がりだった。
玲依が、画面を確認すると、そこに映っていたのは、結依だった。
頻繁に実家へ通うようになってから、この部屋の住所を、結依に教えていた。
けれど、こうして、突然、訪ねてくるのは、初めてのことだった。
玲依は、少し驚きながらも、ドアを開けた。
「どうしたの、急に」
結依は、何も答えず、玄関先に立ったまま、俯いていた。
その様子に、玲依は、ただならぬ気配を感じた。
「結依?」
「……上がって、いい?」
「うん、もちろん」
玲依は、結依を、部屋の中へと招き入れた。
いつもの、屈託のない笑顔は、どこにもなかった。
結依は、リビングのソファに、俯いたまま腰を下ろした。
玲依も、少し離れた場所に座る。
しばらく、沈黙が続いた。
「どうしたの、改まって」
玲依が、そっと切り出した。
結依は、しばらく俯いたまま動かなかった。
やがて、絞り出すように口を開いた。
「この間、大学で、見たの」
「え?」
「お姉ちゃんが、彼氏さんに、忘れ物、届けてるところ」
玲依の心臓が、大きく跳ねた。
「あの、大学って」
「うん」
結依は顔を上げた。
その目には、涙が滲んでいた。
「その人、私が、好きだった人だった」
その一言に、玲依は完全に言葉を失った。
「オープンキャンパスで、絵、描いてるところ見て。一目惚れして」
結依の声が、震え始めていた。
「彼女がいるって、断られて。それでも、諦めきれなくて」
「大学まで、何度も、通って」
玲依は、何も言葉を返せなかった。
これまで、結依から恋の話は聞いていた。
けれど、その相手が、まさか凛だとは、想像もしていなかった。
「どうして、教えてくれなかったの」
結依の声が、次第に大きくなっていく。
「彼氏がいるって、それだけしか、言ってくれなくて」
「知らずに、大学まで行って、告白して」
「わたし、バカみたいっ」
その叫びが、部屋に響いた。
結依の目から、涙が堰を切ったように溢れ出した。
「ごめん」
玲依は、ようやくそう口にした。
「本当に、知らなかった。あなたが、そんな気持ちを抱えてたなんて」
「知らなかったで、済む話?」
結依が、涙を拭いながら、玲依をまっすぐに見つめた。
「お姉ちゃん、いつも、そう。私に、大事なこと、何も話してくれない」
その言葉に、玲依は胸を突かれた。
「隠すつもりじゃ、なかった」
玲依は、言葉を選びながら続けた。
「凛のことは、まだ、誰にも詳しく話してなくて」
「あなたにも、いつか、ちゃんと紹介したいと思ってた」
「いつかって、いつも、そうやって後回しにするじゃん」
結依の声には、これまで玲依が一度も聞いたことのない強さがあった。
「私、ずっと、お姉ちゃんに憧れてた」
「ああいうお姉ちゃんになりたいって、ずっと思ってきた」
「なのに、私のこと、本当は、どう思ってるのか、全然分からない」
その言葉に、玲依は静かに目を伏せた。
これまで家族に対して、どこか一歩引いた態度を取り続けてきた自覚があった。
けれど、それが、結依を、こんなにも傷つけていたとは、思ってもみなかった。
「ごめんね」
――
「もういいよっ!」
結依が、玲依の言葉を、遮るように叫んだ。
涙を拭う間もなく、立ち上がる。
「結依」
「もう、いい」
結依は、そう繰り返しながら、鞄を掴み、玄関へと駆け出していった。
「待って」
玲依が、腰を浮かせる。
けれど、その声が届く前に、玄関のドアが、勢いよく閉まる音がした。
一人、リビングに取り残された玲依は、しばらく、その場から動けなかった。