そこにあったはずの愛
第八十九話 玲那と結香
リビングのドアが、静かに開いた。
父が、そこに立っていた。
手には、一枚の古い写真が握られていた。
三人は、その姿に気づき、動きを止めた。
「あなた」
継母が、驚いたように父を見た。
父は、何も言わず、ゆっくりと部屋の中へと入ってきた。
そして、空いていたソファに、静かに腰を下ろした。
「聞いてほしいことが、ある」
父の声は、これまでに玲依が聞いたことのない、重みを帯びていた。
――
父は、手にしていた写真を、テーブルの上にそっと置いた。
玲依は、その写真に目を落とした。
大きなお腹を抱えた、若い女性。
その隣で、笑顔を向ける、もう一人の女性。
「これは」
玲依が、思わずそう呟いた。
「お前の、母さんだ」
父が、静かにそう答えた。
「隣にいるのが」
父の視線が、継母へと移った。
「今の、お母さんだ」
その言葉に、結依が、驚いたように写真を覗き込んだ。
継母は、俯いたまま、何も言わなかった。
――
「二人は、小学校からの親友だった」
父は、静かに語り始めた。
「クラスも、部活も、いつも一緒だったそうだ」
「大人になっても、その関係は変わらなかった」
玲依は、その言葉に、じっと耳を傾けていた。
これまで、一度も聞いたことのない話だった。
「玲那が、お前を身ごもった時」
父が、玲依をまっすぐに見た。
「結香は、自分のことのように喜んでくれた」
継母が、僅かに肩を震わせた。
けれど、何も言わなかった。
「毎日のように家に来ては、玲那の、大きくなっていくお腹を、一緒に見守ってくれていた」
父の声には、当時を懐かしむような温かさが滲んでいた。
「玲那は、いつも、こう言ってたよ」
父は、一度、言葉を切った。
「この子は、私の宝物だって」
「大きなお腹を、愛おしそうに撫でながら」
その言葉に、玲依の胸が、じんと締め付けられた。
――
「結香も、その様子を、隣でずっと見ていた」
父は続けた。
「玲那の幸せそうな顔を、まるで自分のことのように見守っていた」
「二人は、本当に姉妹のようだった」
その光景を、玲依は頭の中に思い描こうとした。
けれど、まだ生まれる前の自分には、想像することしかできなかった。
――
継母は、俯いたまま、静かに涙を流していた。
「玲那ちゃんは」
継母が、ようやく口を開いた。
震える声だった。
「本当に、幸せそうだった」
「私も、その幸せを、隣で見ていられることが嬉しかった」
その言葉に、玲依は、初めて、継母の実母への想いの深さに触れた気がした。
これまで知らなかった家族の歴史が、今、少しずつ明らかになっていく。
――
けれど、この幸福な日々の先に、どんな結末が待っているのか。
玲依は、それを、まだ聞かされていなかった。
父の話は、まだ続きそうだった。
リビングには、静かな、けれど確かな緊張感が流れ続けていた。
リビングのドアが、静かに開いた。
父が、そこに立っていた。
手には、一枚の古い写真が握られていた。
三人は、その姿に気づき、動きを止めた。
「あなた」
継母が、驚いたように父を見た。
父は、何も言わず、ゆっくりと部屋の中へと入ってきた。
そして、空いていたソファに、静かに腰を下ろした。
「聞いてほしいことが、ある」
父の声は、これまでに玲依が聞いたことのない、重みを帯びていた。
――
父は、手にしていた写真を、テーブルの上にそっと置いた。
玲依は、その写真に目を落とした。
大きなお腹を抱えた、若い女性。
その隣で、笑顔を向ける、もう一人の女性。
「これは」
玲依が、思わずそう呟いた。
「お前の、母さんだ」
父が、静かにそう答えた。
「隣にいるのが」
父の視線が、継母へと移った。
「今の、お母さんだ」
その言葉に、結依が、驚いたように写真を覗き込んだ。
継母は、俯いたまま、何も言わなかった。
――
「二人は、小学校からの親友だった」
父は、静かに語り始めた。
「クラスも、部活も、いつも一緒だったそうだ」
「大人になっても、その関係は変わらなかった」
玲依は、その言葉に、じっと耳を傾けていた。
これまで、一度も聞いたことのない話だった。
「玲那が、お前を身ごもった時」
父が、玲依をまっすぐに見た。
「結香は、自分のことのように喜んでくれた」
継母が、僅かに肩を震わせた。
けれど、何も言わなかった。
「毎日のように家に来ては、玲那の、大きくなっていくお腹を、一緒に見守ってくれていた」
父の声には、当時を懐かしむような温かさが滲んでいた。
「玲那は、いつも、こう言ってたよ」
父は、一度、言葉を切った。
「この子は、私の宝物だって」
「大きなお腹を、愛おしそうに撫でながら」
その言葉に、玲依の胸が、じんと締め付けられた。
――
「結香も、その様子を、隣でずっと見ていた」
父は続けた。
「玲那の幸せそうな顔を、まるで自分のことのように見守っていた」
「二人は、本当に姉妹のようだった」
その光景を、玲依は頭の中に思い描こうとした。
けれど、まだ生まれる前の自分には、想像することしかできなかった。
――
継母は、俯いたまま、静かに涙を流していた。
「玲那ちゃんは」
継母が、ようやく口を開いた。
震える声だった。
「本当に、幸せそうだった」
「私も、その幸せを、隣で見ていられることが嬉しかった」
その言葉に、玲依は、初めて、継母の実母への想いの深さに触れた気がした。
これまで知らなかった家族の歴史が、今、少しずつ明らかになっていく。
――
けれど、この幸福な日々の先に、どんな結末が待っているのか。
玲依は、それを、まだ聞かされていなかった。
父の話は、まだ続きそうだった。
リビングには、静かな、けれど確かな緊張感が流れ続けていた。