そこにあったはずの愛
第九話 褒め言葉の棘
「相変わらず綺麗だね」
取引先の男が、笑いながらそう言った。
いつも通り、玲依は微笑みだけを返した。
けれど、その一言が、胸の奥に小さな棘のように残った。
――
物心ついた頃から、そう言われ続けてきた。
可愛いね。
綺麗だね。
成長するたびに増していく美貌。
けれどその言葉を、嬉しいと思ったことは一度もなかった。
褒められるたびに、何かを少しずつ削られていくような感覚があった。
玲依の家は、他よりも裕福だった。
けれど、玲依を産んですぐ、実母は亡くなった。
――
物心つく前に、今の継母が来た。
赤ん坊の頃から、我が子のように育ててくれた。
その愛情が、偽物でないことは分かっていた。
七歳の時、継母のお腹に、新しい命が宿った。
異母妹が生まれた。
それでも継母は、玲依への態度を変えなかった。
異母妹と同じように、変わらず愛情を注いでくれた。
なのに、それが玲依には、違和感でしかなかった。
血の繋がりもないのに、なぜ。
理由の分からない愛情に、居場所のなさだけが募っていった。
――
思春期に差し掛かった頃、もう一つの感情に気づいた。
実母が亡くなってすぐ、今の継母を迎えた父。
幼い頃は、分からなかった。
けれど成長するにつれ、その意味が理解できてしまった。
継母を嫌う気持ちはなかった。
けれど、父という存在だけは、静かに拒絶するようになっていった。
――
高校生になった頃から、自分を大事にすることをやめた。
求められれば、断らなかった。
何も考えずにいられる、唯一の時間だった。
同時に、父からの援助だけは受けたくなかった。
高校に入ってすぐ、バイトを始めた。
少しずつ、お金を貯めていった。
大学を卒業したら、家を出る。
それだけを、静かに胸に決めていた。
――
窓の外を眺めながら、玲依は我に返る。
あの頃と、今と。
何が変わったのだろう。
何も、変わっていない気がした。
ふと、凛の顔が頭をよぎる。
その理由を、玲依はまだ、うまく言葉にできなかった。
窓の外は、いつの間にか、雨が降り始めていた。
「相変わらず綺麗だね」
取引先の男が、笑いながらそう言った。
いつも通り、玲依は微笑みだけを返した。
けれど、その一言が、胸の奥に小さな棘のように残った。
――
物心ついた頃から、そう言われ続けてきた。
可愛いね。
綺麗だね。
成長するたびに増していく美貌。
けれどその言葉を、嬉しいと思ったことは一度もなかった。
褒められるたびに、何かを少しずつ削られていくような感覚があった。
玲依の家は、他よりも裕福だった。
けれど、玲依を産んですぐ、実母は亡くなった。
――
物心つく前に、今の継母が来た。
赤ん坊の頃から、我が子のように育ててくれた。
その愛情が、偽物でないことは分かっていた。
七歳の時、継母のお腹に、新しい命が宿った。
異母妹が生まれた。
それでも継母は、玲依への態度を変えなかった。
異母妹と同じように、変わらず愛情を注いでくれた。
なのに、それが玲依には、違和感でしかなかった。
血の繋がりもないのに、なぜ。
理由の分からない愛情に、居場所のなさだけが募っていった。
――
思春期に差し掛かった頃、もう一つの感情に気づいた。
実母が亡くなってすぐ、今の継母を迎えた父。
幼い頃は、分からなかった。
けれど成長するにつれ、その意味が理解できてしまった。
継母を嫌う気持ちはなかった。
けれど、父という存在だけは、静かに拒絶するようになっていった。
――
高校生になった頃から、自分を大事にすることをやめた。
求められれば、断らなかった。
何も考えずにいられる、唯一の時間だった。
同時に、父からの援助だけは受けたくなかった。
高校に入ってすぐ、バイトを始めた。
少しずつ、お金を貯めていった。
大学を卒業したら、家を出る。
それだけを、静かに胸に決めていた。
――
窓の外を眺めながら、玲依は我に返る。
あの頃と、今と。
何が変わったのだろう。
何も、変わっていない気がした。
ふと、凛の顔が頭をよぎる。
その理由を、玲依はまだ、うまく言葉にできなかった。
窓の外は、いつの間にか、雨が降り始めていた。