そこにあったはずの愛
第九十一話 あなたのお母さんになりたい
継母は、しばらく俯いたまま、言葉を探していた。
やがて、静かに続きを語り始めた。
「玲依ちゃんは、何も知らずに笑ってた」
継母の声は震えていた。
「お母さんが、もういないことも。周りが、悲しんでることも」
「何も、分からないまま」
継母は、その時の光景を思い出すように、目を細めた。
「それが、あまりにも可哀想で」
「けど、同時に、あまりにもいじらしくて」
その言葉に、玲依はじっと耳を傾けていた。
「葬儀が終わってからも、その顔が頭から離れなかった」
継母は続けた。
「何も知らない、玲依ちゃんが、この先、どうやって育っていくんだろうって」
「考えれば考えるほど、居ても立ってもいられなくなった」
継母は、そこで一度、言葉を切った。
「それで」
深く息を吸い込む。
「あなたに、会いに行ったの」
継母の視線が、父へと向けられた。
父が、静かに頷いた。
「よく、覚えてる」
父が、そう口を開いた。
「突然、家に来て。真剣な顔で、話がある、って」
――
「私」
継母が、玲依をまっすぐに見つめた。
「あなたのお父さんと、結婚したかったわけじゃないの」
その一言に、玲依の心臓が大きく跳ねた。
「あなたの、お母さんに、なりたかった」
継母の声は静かだったが、確かな強さを帯びていた。
「それだけだった」
「玲那ちゃんが、いなくなって。玲依ちゃんを守れるのは、私しかいないって、そう思ったの」
その言葉に、玲依の目から涙が溢れ出した。
「突然の、申し出だった」
父が、当時を振り返るように続けた。
「正直、戸惑った」
「けど、結香の目を見て、分かったんだ」
父は、静かにそう言った。
「この人は、本気だって」
「玲那を、思う気持ちが本物だからこそ、玲依を守りたいと、思ってくれてるんだって」
父の声にも、深い感謝の色が滲んでいた。
――
玲依は、これまで当たり前のように受けてきた、継母の愛情を思い返していた。
その本当の始まりが、今、初めて明らかになった。
義務でも、打算でもない。
ただ、一人の親友を失った悲しみの中で、その忘れ形見を守りたいと願った、一人の女性の強い決意。
その事実の重さに、玲依は言葉を失っていた。
「けど」
継母が、ふと視線を落とした。
その表情に、これまでとは少し違う、複雑な色が浮かんでいた。
「まだ、話さなきゃいけないことが、ある」
継母は、そう呟いた。
「結依を、身ごもった時のこと」
その一言に、玲依は静かに息を飲んだ。
まだ、この話は終わっていなかった。
継母の表情の奥に、何か深い葛藤の記憶が眠っているように見えた。
――
リビングには、また新たな緊張感が静かに満ちていった。
継母は、しばらく俯いたまま、言葉を探していた。
やがて、静かに続きを語り始めた。
「玲依ちゃんは、何も知らずに笑ってた」
継母の声は震えていた。
「お母さんが、もういないことも。周りが、悲しんでることも」
「何も、分からないまま」
継母は、その時の光景を思い出すように、目を細めた。
「それが、あまりにも可哀想で」
「けど、同時に、あまりにもいじらしくて」
その言葉に、玲依はじっと耳を傾けていた。
「葬儀が終わってからも、その顔が頭から離れなかった」
継母は続けた。
「何も知らない、玲依ちゃんが、この先、どうやって育っていくんだろうって」
「考えれば考えるほど、居ても立ってもいられなくなった」
継母は、そこで一度、言葉を切った。
「それで」
深く息を吸い込む。
「あなたに、会いに行ったの」
継母の視線が、父へと向けられた。
父が、静かに頷いた。
「よく、覚えてる」
父が、そう口を開いた。
「突然、家に来て。真剣な顔で、話がある、って」
――
「私」
継母が、玲依をまっすぐに見つめた。
「あなたのお父さんと、結婚したかったわけじゃないの」
その一言に、玲依の心臓が大きく跳ねた。
「あなたの、お母さんに、なりたかった」
継母の声は静かだったが、確かな強さを帯びていた。
「それだけだった」
「玲那ちゃんが、いなくなって。玲依ちゃんを守れるのは、私しかいないって、そう思ったの」
その言葉に、玲依の目から涙が溢れ出した。
「突然の、申し出だった」
父が、当時を振り返るように続けた。
「正直、戸惑った」
「けど、結香の目を見て、分かったんだ」
父は、静かにそう言った。
「この人は、本気だって」
「玲那を、思う気持ちが本物だからこそ、玲依を守りたいと、思ってくれてるんだって」
父の声にも、深い感謝の色が滲んでいた。
――
玲依は、これまで当たり前のように受けてきた、継母の愛情を思い返していた。
その本当の始まりが、今、初めて明らかになった。
義務でも、打算でもない。
ただ、一人の親友を失った悲しみの中で、その忘れ形見を守りたいと願った、一人の女性の強い決意。
その事実の重さに、玲依は言葉を失っていた。
「けど」
継母が、ふと視線を落とした。
その表情に、これまでとは少し違う、複雑な色が浮かんでいた。
「まだ、話さなきゃいけないことが、ある」
継母は、そう呟いた。
「結依を、身ごもった時のこと」
その一言に、玲依は静かに息を飲んだ。
まだ、この話は終わっていなかった。
継母の表情の奥に、何か深い葛藤の記憶が眠っているように見えた。
――
リビングには、また新たな緊張感が静かに満ちていった。