そこにあったはずの愛
第九十二話 実子を、授かること
継母は、しばらく目を伏せていた。
やがて、静かに続きを語り始めた。
「結婚して、しばらく経った頃」
継母の声は、少し掠れていた。
「私、妊娠したの」
その言葉に、玲依は静かに耳を傾けた。
「けど、素直に喜べなかった」
継母は、膝の上で指を固く組んだ。
「これは、玲依ちゃんのための結婚だったのに」
「私が、実の子を授かるなんて、違うんじゃないかって」
その言葉に、玲依は胸を突かれた。
「私は、あなたに相談した」
継母が、父の方を見た。
「堕ろした方が、いいんじゃないかって」
その一言に、リビングの空気が張り詰めた。
「よく、覚えてる」
父が、静かに口を開いた。
「あの時、俺は、産むように、と言った」
父の声には、当時の確かな決意が滲んでいた。
「けど」
継母が続けた。
「それでも、私の中では、まだ迷いが消えなかった」
「玲依ちゃんへの、裏切りになるんじゃないかって。ずっと、そう思ってた」
――
「そんなある日」
継母は、遠くを見るような目で続けた。
「まだ小さかった、玲依ちゃんが」
継母の視線が、玲依へと向けられた。
「私のところに来て、聞いたの」
「ママ、赤ちゃん、できたの?」
継母は、その時の声をまねるように、優しく言った。
「玲依、嬉しい、って」
その言葉に、玲依の目から涙が溢れ出した。
自分の記憶には、まったく残っていない、幼い日の一言だった。
「その一言で」
継母の目にも涙が滲んでいた。
「私、決めたの」
「産もうって」
継母は、深く息を吸った。
「けど、同時に、心に誓った」
「この子が生まれても。玲依ちゃんへの気持ちは、絶対に変えないって」
「二人とも、同じように愛そうって」
その言葉に、玲依は、これまでの人生の多くの場面を思い返していた。
分け隔てなく注がれてきた、継母の愛情。
その一つ一つに、こんなにも深い決意が込められていたとは知らなかった。
「知らなかった」
玲依は、涙を拭いながらそう呟いた。
「覚えてない。そんなこと、言ったなんて」
「なのに、そんなに、大きな意味を持ってたなんて」
――
結依も、その話を、ずっと黙って聞いていた。
その目にも涙が浮かんでいた。
「お母さん」
結依が、震える声でそう呼んだ。
「そんな覚悟の上で、私を産んでくれたんだね」
継母は、小さく頷いた。
「二人とも、私にとって同じくらい、大切な娘だから」
その言葉に、リビングにいた全員が、深い静けさの中に包まれていた。
これまで、当たり前のように受け取ってきた、家族からの愛情。
その一つ一つの裏にあった確かな想いを、玲依は、今、あらためて噛み締めていた。
継母は、しばらく目を伏せていた。
やがて、静かに続きを語り始めた。
「結婚して、しばらく経った頃」
継母の声は、少し掠れていた。
「私、妊娠したの」
その言葉に、玲依は静かに耳を傾けた。
「けど、素直に喜べなかった」
継母は、膝の上で指を固く組んだ。
「これは、玲依ちゃんのための結婚だったのに」
「私が、実の子を授かるなんて、違うんじゃないかって」
その言葉に、玲依は胸を突かれた。
「私は、あなたに相談した」
継母が、父の方を見た。
「堕ろした方が、いいんじゃないかって」
その一言に、リビングの空気が張り詰めた。
「よく、覚えてる」
父が、静かに口を開いた。
「あの時、俺は、産むように、と言った」
父の声には、当時の確かな決意が滲んでいた。
「けど」
継母が続けた。
「それでも、私の中では、まだ迷いが消えなかった」
「玲依ちゃんへの、裏切りになるんじゃないかって。ずっと、そう思ってた」
――
「そんなある日」
継母は、遠くを見るような目で続けた。
「まだ小さかった、玲依ちゃんが」
継母の視線が、玲依へと向けられた。
「私のところに来て、聞いたの」
「ママ、赤ちゃん、できたの?」
継母は、その時の声をまねるように、優しく言った。
「玲依、嬉しい、って」
その言葉に、玲依の目から涙が溢れ出した。
自分の記憶には、まったく残っていない、幼い日の一言だった。
「その一言で」
継母の目にも涙が滲んでいた。
「私、決めたの」
「産もうって」
継母は、深く息を吸った。
「けど、同時に、心に誓った」
「この子が生まれても。玲依ちゃんへの気持ちは、絶対に変えないって」
「二人とも、同じように愛そうって」
その言葉に、玲依は、これまでの人生の多くの場面を思い返していた。
分け隔てなく注がれてきた、継母の愛情。
その一つ一つに、こんなにも深い決意が込められていたとは知らなかった。
「知らなかった」
玲依は、涙を拭いながらそう呟いた。
「覚えてない。そんなこと、言ったなんて」
「なのに、そんなに、大きな意味を持ってたなんて」
――
結依も、その話を、ずっと黙って聞いていた。
その目にも涙が浮かんでいた。
「お母さん」
結依が、震える声でそう呼んだ。
「そんな覚悟の上で、私を産んでくれたんだね」
継母は、小さく頷いた。
「二人とも、私にとって同じくらい、大切な娘だから」
その言葉に、リビングにいた全員が、深い静けさの中に包まれていた。
これまで、当たり前のように受け取ってきた、家族からの愛情。
その一つ一つの裏にあった確かな想いを、玲依は、今、あらためて噛み締めていた。