そこにあったはずの愛
第九十八話 歪んでいた、心の全部
「まだ、話は、終わってないの」
玲依は、静かにそう続けた。
凛が、真剣な表情で頷いた。
「聞くよ」
その一言に、玲依は深く息を吸った。
これから話すことは、これまでの人生で、誰にも正直に語ったことのない、心の内側だった。
「結依はね」
玲依は、慎重に言葉を選びながら続けた。
「私の、異母妹なの」
凛が、僅かに目を見開いた。
「異母、妹」
「うん」
玲依は頷いた。
「私のお母さんと、結依のお母さんは、違う人」
「今の、お母さんは、継母」
凛は、その言葉をじっくりと受け止めるように、しばらく黙っていた。
「そんなこと」
やがて、静かにそう呟いた。
「今まで、話してなかったんだね」
「うん」
玲依は、小さく頷いた。
「自分でも、どう話せばいいのか、分からなかった」
「そして」
玲依は続けた。
「結依は、その事実を、三年前から知ってたの」
「けど、ずっと誰にも言わずに、一人で抱え続けてた」
凛の表情が、深く曇った。
「三年も」
「今日、それが明るみに出て」
玲依は、静かに続けた。
「実家で、色々な真実が分かったの」
――
玲依は、そこから、ゆっくりと時間をかけて語り始めた。
実母と継母が、小学校からの親友だったこと。
実母を亡くした後、継母が、玲依の母になりたいと申し出てくれたこと。
継母が、結依を身ごもった時、玲依への裏切りになるのではと葛藤したこと。
けれど、幼い玲依の無邪気な一言が、その決意を後押ししたこと。
凛は、その一つ一つを、口を挟まず、じっと聞いていた。
時折、小さく頷きながら。
その静かな相槌が、玲依にとって、何よりの支えになっていた。
「けど」
玲依は、ここで一度、言葉を止めた。
これから話すことが、一番重かった。
「私自身も、ずっと歪んでたの」
その一言に、凛が、玲依をまっすぐに見つめ直した。
「小さい頃は、何も疑問に思わなかった」
玲依は続けた。
「けど、小学校三、四年生くらいから」
「血の繋がらない私が、どうして、結依と同じように大切にされるんだろうって」
「本当は、差別されるべきなのに、それがされないことが、逆に不安だった」
「屈託なく、継母に甘える結依を見るたびに」
玲依の声が、少し震え始めた。
「羨ましいんじゃなくて。信じられなくなっていったの」
「この愛情は、本当に本物なんだろうかって」
「いつか、剥がれ落ちるんじゃないかって」
「それが、いつの間にか」
玲依は、俯きながら続けた。
「継母への、不信感に変わっていった」
「優しくされるたびに、素直に喜べなくなって」
「ずっと、一歩引いて見てしまう自分がいた」
――
凛は、何も言わなかった。
ただ、静かに、玲依の言葉を受け止め続けていた。
その沈黙が、玲依にとって、何よりも優しかった。
「けど、今日」
玲依は、顔を上げ、凛を見つめた。
「継母の、本当の想いを聞いて」
玲依の目に、涙が滲み始めた。
「私、ずっと、勘違いしてたんだって、気づいた」
「差別されないことが、おかしいんじゃなくて」
「最初から、差別なんて、する気がなかったんだって」
「それで」
玲依は続けた。
「ようやく、継母のことを、心からお母さんって呼べるようになったの」
「結依とも、ちゃんと仲直りできた」
凛は、静かにその言葉を聞いていた。
その目にも、涙が滲んでいるようだった。
「凛」
玲依は、そこであらためて、その名前を呼んだ。
「これも、伝えたかったこと、なんだけど」
凛が、小さく首を傾げた。
「あなたに出会ってなかったら」
玲依は、深く息を吸った。
「私、あのまま、ずっと堕落した、惰性的な生活を続けてたと思う」
「誰にも、心を開けないまま」
「あなたのおかげで、私は、あの生活から抜け出せた」
玲依は、まっすぐに凛を見つめた。
「ちゃんと、伝えたことなかったけど」
「本当に、感謝してるの」
――
その言葉に、凛の目から、涙が静かに溢れ出した。
「玲依さん」
凛は、震える声で、その名前を呼んだ。
「そんなふうに、思っててくれたなんて」
「これまで、一人で、そんなに、たくさんのこと抱えてたんだね」
凛は、静かに続けた。
「もっと、早く気づいてあげられたら、良かった」
「ううん」
玲依は首を振った。
「今、話せて、良かった」
「あなたが、ちゃんと聞いてくれたから」
凛は、そっと手を伸ばし、玲依を抱き寄せた。
玲依は、その腕の中に、静かに身を委ねた。
「これからも」
凛が、耳元でそう囁いた。
「なんでも、話してよ」
「二人で、抱えていくって、約束したから」
「うん」
玲依は、小さく頷いた。
その腕の中で、これまでの長い長い告白の連鎖が、ようやく、本当の意味で終わりを迎えていた。
――
窓の外、夜は深く更けていた。
けれど、二人の間に流れる、この温もりだけは、どんな夜よりも確かで、変わらないものだった。
「まだ、話は、終わってないの」
玲依は、静かにそう続けた。
凛が、真剣な表情で頷いた。
「聞くよ」
その一言に、玲依は深く息を吸った。
これから話すことは、これまでの人生で、誰にも正直に語ったことのない、心の内側だった。
「結依はね」
玲依は、慎重に言葉を選びながら続けた。
「私の、異母妹なの」
凛が、僅かに目を見開いた。
「異母、妹」
「うん」
玲依は頷いた。
「私のお母さんと、結依のお母さんは、違う人」
「今の、お母さんは、継母」
凛は、その言葉をじっくりと受け止めるように、しばらく黙っていた。
「そんなこと」
やがて、静かにそう呟いた。
「今まで、話してなかったんだね」
「うん」
玲依は、小さく頷いた。
「自分でも、どう話せばいいのか、分からなかった」
「そして」
玲依は続けた。
「結依は、その事実を、三年前から知ってたの」
「けど、ずっと誰にも言わずに、一人で抱え続けてた」
凛の表情が、深く曇った。
「三年も」
「今日、それが明るみに出て」
玲依は、静かに続けた。
「実家で、色々な真実が分かったの」
――
玲依は、そこから、ゆっくりと時間をかけて語り始めた。
実母と継母が、小学校からの親友だったこと。
実母を亡くした後、継母が、玲依の母になりたいと申し出てくれたこと。
継母が、結依を身ごもった時、玲依への裏切りになるのではと葛藤したこと。
けれど、幼い玲依の無邪気な一言が、その決意を後押ししたこと。
凛は、その一つ一つを、口を挟まず、じっと聞いていた。
時折、小さく頷きながら。
その静かな相槌が、玲依にとって、何よりの支えになっていた。
「けど」
玲依は、ここで一度、言葉を止めた。
これから話すことが、一番重かった。
「私自身も、ずっと歪んでたの」
その一言に、凛が、玲依をまっすぐに見つめ直した。
「小さい頃は、何も疑問に思わなかった」
玲依は続けた。
「けど、小学校三、四年生くらいから」
「血の繋がらない私が、どうして、結依と同じように大切にされるんだろうって」
「本当は、差別されるべきなのに、それがされないことが、逆に不安だった」
「屈託なく、継母に甘える結依を見るたびに」
玲依の声が、少し震え始めた。
「羨ましいんじゃなくて。信じられなくなっていったの」
「この愛情は、本当に本物なんだろうかって」
「いつか、剥がれ落ちるんじゃないかって」
「それが、いつの間にか」
玲依は、俯きながら続けた。
「継母への、不信感に変わっていった」
「優しくされるたびに、素直に喜べなくなって」
「ずっと、一歩引いて見てしまう自分がいた」
――
凛は、何も言わなかった。
ただ、静かに、玲依の言葉を受け止め続けていた。
その沈黙が、玲依にとって、何よりも優しかった。
「けど、今日」
玲依は、顔を上げ、凛を見つめた。
「継母の、本当の想いを聞いて」
玲依の目に、涙が滲み始めた。
「私、ずっと、勘違いしてたんだって、気づいた」
「差別されないことが、おかしいんじゃなくて」
「最初から、差別なんて、する気がなかったんだって」
「それで」
玲依は続けた。
「ようやく、継母のことを、心からお母さんって呼べるようになったの」
「結依とも、ちゃんと仲直りできた」
凛は、静かにその言葉を聞いていた。
その目にも、涙が滲んでいるようだった。
「凛」
玲依は、そこであらためて、その名前を呼んだ。
「これも、伝えたかったこと、なんだけど」
凛が、小さく首を傾げた。
「あなたに出会ってなかったら」
玲依は、深く息を吸った。
「私、あのまま、ずっと堕落した、惰性的な生活を続けてたと思う」
「誰にも、心を開けないまま」
「あなたのおかげで、私は、あの生活から抜け出せた」
玲依は、まっすぐに凛を見つめた。
「ちゃんと、伝えたことなかったけど」
「本当に、感謝してるの」
――
その言葉に、凛の目から、涙が静かに溢れ出した。
「玲依さん」
凛は、震える声で、その名前を呼んだ。
「そんなふうに、思っててくれたなんて」
「これまで、一人で、そんなに、たくさんのこと抱えてたんだね」
凛は、静かに続けた。
「もっと、早く気づいてあげられたら、良かった」
「ううん」
玲依は首を振った。
「今、話せて、良かった」
「あなたが、ちゃんと聞いてくれたから」
凛は、そっと手を伸ばし、玲依を抱き寄せた。
玲依は、その腕の中に、静かに身を委ねた。
「これからも」
凛が、耳元でそう囁いた。
「なんでも、話してよ」
「二人で、抱えていくって、約束したから」
「うん」
玲依は、小さく頷いた。
その腕の中で、これまでの長い長い告白の連鎖が、ようやく、本当の意味で終わりを迎えていた。
――
窓の外、夜は深く更けていた。
けれど、二人の間に流れる、この温もりだけは、どんな夜よりも確かで、変わらないものだった。