ハイカロリー ~優しいドラゴンと、ちょっとぽちゃっとした伝説~
第4話 ドラゴンハーツ
「工場長、あの圧力鍋を使わせてもらいたいのですが。」
「藤島さん、『いにしえのドラゴン』を復活させるのですか?」
「現状を見て、それが手っ取り早いかと。
あれを使えば製品の均一化が図れる。」
「しかしあれは、一度暴発しましてね。
それ以来、だれも使わんのですよ。」
「そいつは水加減と分量を間違えたからだろう?」
「その間違いに気づけないんですよ。
だから事故が起きた。
幸い鍋が壊れただけですがね。」
「システムは……無事なのか?」
「EPROMは無事でしょうね。
しかし今では、もうアクセスできる環境がありません。」
「まぁ、そこは新しくするとしても、元の制御が……。
いや、待てよ。
まだあいつの中に残っているかもな?」
「おい菅谷、会社に戻るぞ。」
「え? あ、はいっす。」
「工場長、また出直してきますね。」
そういうと、僕たちは藤島さんの車で会社に帰った。
夜のオフィス。
設計1課の明かりは、まだついていた。
僕はデスク周りの明かりをつけた。
「お前に見せたいものがある。」
そういうと藤島さんは僕の席の椅子を横につけて、座るように促した。
古い見たこともないパソコン。
ずいぶん大きい。
「FA286、16ビット機だ。
名前は地味だが──こいつがドラゴンの心臓を動かす器だった。
でもこいつは俺の、30年もの相棒だ。」
藤島さんの手が震えていた。
スイッチを入れると、大きなファンの音がした。
ブラウン管のモニターがゆっくり立ち上がり、一面緑色の画面が表示された。
暗い闇の中に浮かび上がった藤島さんの顔。
メガネがきらりと光った。
ギザギザ文字のプログラム。
でもちょっとわかる。
「C++だ。
シーケンサーの制御をさせている。」
「え、これ……C++?
というか、めっちゃ古い書き方……。」
「ああ、あの頃は他に選択肢がなかったんだよ。」
「えっと……少しなら……読めます。
やってることは想像つく感じっす。」
「お、やるじゃねぇか。
C#あたり触ってんなら、構文は似てるからな。
読み書きは違うが、読解力は武器になるぞ。」
「外部からの信号を受けて制御しているんですね。
センサーに……デジスイッチ?」
ははっ、すげえな。
30年も前にこんなこと。
「あ? この時代にこれって?
藤島さんが書いたんですか……やっぱり変態的っすね。」
「ほっとけ。
その時は奇抜なアイデアでも、今じゃ普通だろ?」
今では当たり前って、その当たり前を30年も前に作ったんじゃないか。
「サーボモーター回して……全ネジボルト?
ホームセンターに売ってるやつっすよね?
「それな、ねじ切ってある金属棒を使ったんだよ。
バルブに溝を切って、それで回したのよ。
水の量、温度、そして蒸気圧を電磁弁で減圧、圧力調整をしていたわけだ。」
「それか!」
「デジスイッチでパルスを拾ってプログラムに制御させたわけだ。」
「……なんすか、それ? ニンテンドースイッチの親戚っすか?」
もう無茶苦茶だな。
でもその辺にあるもので解決させるなんて、いかにもこの人らしい。
僕はこの藤島さんという人が、恐ろしく見えた。
「今ではもっといいものがありますし、制御も可能です。」
「時代が追い越したのか、俺が置いてかれちまったのか……。
もうこのプログラムを動かすハードがないんだ。
今どきのシステムにお前が置き換えるんだよ。」
「ええ……でもこれが『ドラゴンの心臓部』なんですよね。」
「ああ、そうだ。
そしてお前がこれからこいつを食うんだ。」
「……胸やけしそうっす。」
「あんこだからな。」
なんだか時代を超えて、若き日の藤島さんとつながった気がする。
「さて、ドラゴンに心臓移植だ。
かなりの大手術になるぞ。」
藤島さんの声が震えていた。
この時を待っていたかのようだ。
「はいっす!」
正直怖い。
けど、それでもやる。
背筋がピンと伸びた。
藤島さんが起こしたコード。
これを手に、僕が『いにしえのドラゴン』に立ち向かうんだ。
だってこの人の背中を追いかけてみたいから。