転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
幽閉塔の夜は、昼間とはまるで違う場所になる。
灯火が消えたあとの静けさは、むしろ音を吸い寄せるようで――理央はベッドの上で膝を抱え、ひとりごとを繰り返していた。
「……なんなの、あの人。いつも偉そうで、冷たくて。でも……」
言葉がそこで途切れる。
頬が熱くなるのを、彼女自身がもてあましていた。
ごろごろと寝返りを打ち、ようやく諦めて深呼吸する。
その時――胸の奥がふっと温かくなった。
小さな火が灯るように、心臓の奥に光が差し込む。
直後、塔の空気がわずかに揺れた。
風はない。
だが、確かに空間が震えている。
理央は恐る恐る立ち上がり、手を差し出す。
すると、その掌に淡く透き通る光の粒がひとつ、ぽつりと浮かんでいた。
「……えっ? 何これ」
指先でそっと触れると、光はふわりと広がり、ゆっくりと天井へと昇っていく。
(なになに!? 私の体から発光ダイオードみたいな光が出てるんだけど!? 蛍!? 深海魚の仲間入り!?)
理央が内心でパニックになっている間にも、光は小さな灯火の群れとなって、塔全体を照らしていく。
次の瞬間――塔の中に、薄い光の幕が広がった。
眩しさはない。
ただ、祈りのような静謐さが空気を満たす。
まるで塔そのものが、神域へと変わったかのように。
「……もしかしてファンタジー世界の、『神秘』ってやつなの……?」
小さく漏らした声はすぐに光に溶け、消えていった。
祝福か、それとも警告か――判別はできない。
視線を落とすと、机の上に広げていた祈祷記録のページが、ふわりとめくれていた。
そこには古い筆致で、ひときわ強調された一文が記されている。
『器が祈りに染まりし時、神の光は目覚め、主の声を携えん』
「神の光、ね……。でも、私がそんな立派な聖女なわけ……」
否定するように笑ったが、その声は震えていた。
光はやがて収まり、塔は再び静寂を取り戻す。
理央はまだ知らなかった。
自分の中に眠る何かが、いま小さく目を覚ましたことを。
そしてそれが、同時に最大の試練を連れてくるということも――まだ、知らなかった。