転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
塔の見張りが物理的に強化されたのは、その夕刻前だった。
ジークは塔の周囲に新たな配置を命じ、常時四人の近衛を常駐させる。
塔の出入り口には、顔ぶれの異なるいかつい騎士たち。
下級神官が交代するたびに記録が残され、事務方との連携も強化された。
「物々しいったらありゃしない」
塔の階段を下りてきた理央が、踊り場にある小さな窓から外を眺めてつぶやいた。
(物理的な警備コストだけやたら掛けて、根本的な問題解決を先送りするダメな大企業そのものね。情報漏洩対策でフロアの入り口に警備員増やしたって意味ないのに)
「まるで囚人扱いね、これじゃ。どうやって脱出できるのかな。一服盛るしか……」
「自覚がある分、たちが悪い」
背後から低い声が響く。
振り返ると、そこには彼女の護衛兼監視役の騎士、ジークが腕を組んで立っていた。
「またあなただけ? 最近、やたら来るわね」
「お前の奇跡ならぬ『奇行』に巻き込まれる部下は気の毒だからな」
「はあ? あれは意図してやったわけじゃないし、そもそも私が何したっていうのよ」
「力を暴走させた」
「言いがかりでしょ!? あれは、あくまで……感応! しただけで……って、あーもう!」
(意図しないシステムのエラー動作みたいなもんでしょ! 始末書書けって言うの!?)
理央は髪をかき上げ、ぷいと顔を背けた。
「別にいいわよ。もう慣れたし。これだけ囲まれてれば、安全っちゃ安全だし」
「安全……? お前、命を狙われている自覚あるのか?」
「だって見守ってくれてるんでしょう、私の事?」
「……ああ。聖女の保護は、王命だからな。仕方なく、だ」
「ふうん……じゃあ、もう少し優しくしてくれてもいいと思うんだけど」
「無理だな。甘やかすと調子に乗るだろう」
辛辣な言葉に理央はむっと口を噤む。
「ほら見ろ。図星だと黙る」
石造りの階段に、いつもの喧嘩じみた会話がこだまする。
けれどそのやり取りの裏に芽吹きつつある感情を、二人だけがまだ、気づいていなかった。