転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
その時、室内にささやかな声が落ちた。
「――え……」
振り返ると、聖女の衣装の入った籠を両手にしたカナンが、数日前にセイラが自分に対して見せたような表情で、固まっている。
妙な態勢のまま理央は素早く思考する。
その1 何事も無かったかのようにいつも通り具合悪そうな顔で椅子に座る
その2 いっそのこと強気な態度で、これが普通ですけど、何か? と出る
その3 何か発言する機会を与えず、現状へのツッコミを許さない
その3で行こう。
「カナンちょうどいい所に。これ、あなたにもおすそわけ」
理央は部屋の入り口で棒立ちとなっているカナンの所まですたすたと歩いていくと、夜食用にとっておいたマフィンの入った紙袋を、籠の上にポンと乗せる。
袋越しでもバターの優しい香りがする。
「セイラが厨房の方から分けてもらったんですって。とっても美味しかったからあなたにも食べてもらいたくって」
「ま、ま、ま、ま、まふぃ、ん……」
「これ次の着替えね、そろそろ祈祷のお時間なのね~。さっきやったような気もするけど……。私、着替えちゃうから、あなたはソレをどこかに片付けちゃいなさい」
いいながら、理央は籠から聖女の衣装をつまみあげると、半ば強引にカナンを部屋の外に押し出した。
カナンは、バタンと閉じた扉をじっと見つめ、手の中にある紙袋に視線を落とし、もう一度扉を見る。
室内からは何か、鼻歌のようなものが聞こえてくる。
途端にこみ上がってきた感情に、カナンは泣きたくなったが、鼻を軽くすすって塔の通路を走り出した。
聖女の部屋を後にしたカナンが何処に向かったのか、理央は知らない。