転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!

 ジークが見たのは、地図と帳簿を広げながら、部屋付きの若い侍女を相手に早口で説明を繰り返す聖女の姿だった。

「まず、寄進金の三割が枢機卿の私室備品の購入費に回されてる。枢機卿って五人しかいないのよね? 祭壇用の布と称して輸入絨毯。聖水保管庫と称して酒樽の搬入記録。中身はワインあたりだと思うんだけども」

「何やら……随分と、愉快そうな話をしているな」

 理央の背筋に冷たいものが走る。
 反射的に、手にしていた書類を本棚の隙間にねじ込んだ。

「なんでもないわよ! 日記読んでただけ! ほら、なんて書いてるか全然わかんなくて、思わず声が出ちゃった、みたいな?」

 理央は、必死にごまかそうとした。

「ほう、随分と好奇心旺盛な聖女殿だな」

 ジークは、理央のすぐ背後に立っていた。
 彼の視線は、理央が書類を隠した本棚の隙間をじっと見つめている。

「文字の書き方が独特過ぎて! 続け字で誰でも読むのちょっと苦労するような感じの! 古代語の暗号みたいでさ! ねーセイラ!」

「はい! 私には蝶々の軌跡にしかみえません~! 難しそうです~」

 理央は、しどろもどろになりながら弁解する。額に嫌な汗が滲む。
 味方であるセイラはやや棒読みで、ジークから目を反らす。

「どう見ても共通文字に見えるがな。会計帳簿の一部ではないか? 一体何を企んでいる?」

 ジークは、理央がねじ込んだ書類をあっさりと引き出すと、冷たい声で問い詰めた。
 彼の目は、獲物を逃がさない猛禽のように鋭かった。

「細かいことは気にしないの! そういう細かいところにとらわれてちゃ、大物になれないわよ!」

 理央は、もはや開き直るしかなかった。
 ──だが、そんなコントのようなやり取りの直後。

 理央の右手に、冷たい感触が這った。
 金属が擦れるような、微かな音が聞こえた気がする。

「……何これ? 変な音……」

 次の瞬間、背後の棚が突如爆発音と共に崩れた。
 轟音と共に、木材が砕け散り、砂埃と黒煙が部屋中に充満する。
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