転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
「え?」
「意志がある。愚かではあるが、筋が通っている」
その言葉に、理央のまなじりがわずかに揺れた。
「つまり、面倒だけど無視はできないってこと?」
「そうだ」
「じゃあ、今の私は、貴方にとって何?」
ジークの表情が、ほんの一瞬だけ、動いた。
「面倒な対象ほど、目が離せん」
不意に、ジークがそんな言葉を口にした。
「――えっと……それ、口説いてるの?」
「事実を述べただけだ」
理央が肩をすくめる。
「無愛想なくせに……」
妙なとこで甘い……いや、タラシの気配がするわね……というツッコミは、かろうじて飲み込んだ。
「ここからは独り言とする――やらんとしている事に、ある程度理解出来るつもりだ」
その言葉に、理央の目がわずかに見開かれた。
目の前の聖女は、確かに変わった。
だが、その変化は、決して悪ではないように思える。
――誰よりも、生きようと足掻いている。
彼の胸の奥で、冷たい氷のような忠誠心が、じわじわと形を変えつつあった。
それが忠義か、同情か、あるいは別の何かかは、まだ分からない。
けれど、それでも彼は、目の前の一人の女から目を離せなかった。
「あっそ。もう少しで諸々の整合が取れるの。だから黙って見守ってて」
「承知した。必要なら手も貸そう」
「……じゃあ、そこの棚の書類。整理、よろしく」
無言で動き出し、本当にファイリング作業を始めるジークに、理央は小さく笑った。
(王国最強の近衛騎士に事務作業の雑用させてる聖女なんて、絶対私くらいよね)
そして少し遅れて── アスランのもとにも、密かに一通の文書が届けられる。
『現聖女に対する疑念。リオ・アリミヌエははたして、リオ・アリミヌエなのか』
その裏には、封蝋も印も何もない。
この密告文を、誰に渡すべきか。
それとも、捨て去るか。
アスランは、文を握ったまま、長く黙っていた。