転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
「……来たの、ジーク」
「新たな投書があったか?」
「うん、いくつかね。励ましも、文句も」
「全部読むのか」
「もちろん」
理央は一枚の紙を取り出し、声に出して読んだ。
「聖女様の声を聞いて初めて、本当にこの教会に信ずるに値する人がいると思えた……って。なんか、泣きそう」
ジークは黙って彼女の横に腰を下ろす。
「聖女は……誰かの希望になっている。だから、余計に狙われる」
「だから、護衛が必要ってこと?」
「……ああ」
短く応じたジークの声は、いつになく柔らかかった。
「ねえ、ジーク」
「なんだ」
「もし、私が……」
沈黙。
理央は自嘲するように笑う。
「あなた、どうせ王政側から送り込まれた間諜みたいなもんでしょ。だったら──」
「その時は」
言葉が遮られる。
ジークは彼女をじっと見た。
「命令で護るのは、ここまでとする」
「ですよね~」
「以降は、気分次第だな」
理央は目を見開いた。
だがすぐに、そっと目を伏せる。
「……その言葉、信じていいのか迷う」
「迷っているうちは、信じなくていい。だが、忘れるな」
夜風が、窓から吹き込む。
その風の中で、理央は小さく笑った。
「ふふ。ずいぶん甘くなったのね、ジーク」
教会内部でさえ、身分制度の柵でがちがちに縛られている。
ジークの言葉に偽りが無かったとしても、彼が命令に背くことは出来ないであろう。
「でも、甘やかされるのは、嫌いじゃない」
仄かな月光の下、ふたりの影が並ぶ。
見上げる月の色は、真珠色をしていた。