転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
 かつてアリミヌエ聖教会総本山へ送り込まれたリオという少女に、家名は無かった。

 ただのリオ。
 王国の辺境に在る教会に身を寄せていた、痩せぎすの少女だ。
 母はリオを産んだ後、産後の肥立ちが悪く、亡くなったと聞いていた。
 とても美しい人だったと、母を知る老神官が良く言っていた。

 だがしかし、リオには母の顔が思い出せない。
 そして母について語ってくれた老神官も、今は冷たい土の中で永久の眠りについている。

 自分によく似ているというのなら、湖水のように深い蒼の瞳をしていたのだと思う。
 池の中に映る自分の風貌は、確かに色合いこそは美しく見えるが、波紋で乱され、美しいとは思えなかった。
 水の中を泳ぐ、赤色をした魚の方が、ずっと美しく見えた。
 魚が自由に泳ぐ姿を見るたびに、自分もあんなふうに、どこか遠くまで行けたらと願った。

 その日は、王都から尊い方が来ると教会の神官長が言っていた。
 村へのおつかいの帰り道、ぬかるんだ道に足を取られ、リオの手から滑り落ちたお供え用の果実が転がってゆく。

 せっかく持ち帰ろうとしたリンゴが、泥にまみれてしまう。
 そしてこの辺りでは見たことの無い、立派な二頭立ての馬車が、止まることも無く、果実をぐしゃぐしゃに潰して走り去っていった。
 蹄の音が遠ざかるのを見送りながら、リオはただ呆然と立ち尽くした。

 半泣きで帰ったリオは案の定、折檻され、裏庭にある井戸の横で、頭から水を掛けられていた。
 冷たい水が、体中の熱を奪っていく。
 飢えと寒さと痛みで、感情が消えていく。
 ただ、この苦しみが早く終わることだけを願った。

 しばらくして慌てた様子の神官長が、リオを折檻した神官の一人を叱責し、その場からリオを助け出し白い聖衣に着替えさせた。
 もつれていた髪を香油でなんとか撫で付け、聖堂へと連れていかれる。
 足元がおぼつかないまま、リオは引きずられるように進んだ。
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