転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
今はまだ、その時では無いのだ。
下級神官や中級神官、教会侍女の一部の不満は、埋火のようにくすぶり続けている。
だが、今この時をもって、それを大火にするわけにはいかない。
なぜなら、理央一人がやりたい放題をしているだけならば、処断されるのは『はみ出し者の聖女』だけで済む。
しかし、さながら革命のように彼ら自身が立ち上がれば、事態は急激に悪化し、粛清の嵐が吹き荒れるだろう。
諸悪の根源は断ちたいが、ここを居場所としている者達の足元まで崩壊させたい訳ではない。
「聖女殿の冷静さには、感服する」
それまで壁際でずっと黙っていたジークが顔をあげて、理央を見つめた。
他者に向ける氷のような視線とは違う、どこか優しい色を帯びた眼差しだ。
理央は、彼の言葉に少しだけ慰められたものの、心の中の不安は消えなかった。
そして、まるで告解するかのように言葉をつづける。
これは、あの旧修道院棟で、元の少女――リオの残した痛ましい祈祷記録を目にしてしまったからなのかもしれない。
「……正直言うと、少し、怖いのよ。この先どうなるのか、全く見えないのが。一般論で言うけど……結果を出せば正当に評価されたりするでしょう。でも、此処では……私の努力が、何の報いもなく終わってしまうんじゃないかって、不安で仕方がないの」
(頑張れば報われるなんて甘い世界じゃないことくらい、社会人経験で嫌ってほど分かってる。でも、あの日記を残したあの子の人生まで、無駄にしたくない……)
普段隠している本心を吐露してしまったことに、理央はわずかな後悔に揺れる。
「……そうだな。ここは、力を持つ者だけが、その力を行使する場所だ」
ジークは、静かに答えた。
その言葉には、理央の弱音を否定するのではなく、底にある恐怖ごと受け止めるような、不思議な響きがあった。
「だから……ふとした瞬間に考えちゃうの。もう、終わりにしたいって、どういう気持ちで言ったんだろうって……」
思わず零れ落ちた言葉に、理央は慌てて口元を抑える。
理央の言葉の真意を理解したのかしていないのか、ジークの表情から感情を読み取ることは難しい。
だが彼は、外からの脅威を遮るように、理央を守る立ち位置から一歩も動かなかった。