転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!


 その日の夜。
 収穫祭の歌と舞の練習のため、理央は礼拝堂に一人で立っていた。
 夜の闇に沈むステンドグラスが、仄かな月光を宿している。

「おい。こんなところでサボっているのか」

 振り返ると、そこにいたのはジークだった。
 足音もなく近づき、随分と気軽にかけられた言葉に一瞬だけどきりとするも、理央はそれを顔に出さないよう極力務める。
 銀髪の美麗な人は、礼拝堂の入り口に寄りかかり、腕を組んでいる。

「誰がサボってるって? ちゃんと大舞台に向けた自主練してますー」

 理央は皮肉げに言い返しながら、もう一度信仰詩を口ずさむ。

「……まあまあだな」

「はぁ? どの口が言うのでしょうか。ならジークが歌ってみてよ」

「聖女が歌う信仰詩とは、ただの歌ではない。神に捧げる祈りそのものだ」

 ジークは静かに理央に近づき、無言で彼女の背後に立つ。

「胸を開け。腹に力を入れろ。そう、もっとだ。上体を反らすな」

 理央は戸惑いながらも、彼の指示通りに体勢を整える。

「……何よ、急に。ていうか、こんなことまでできるんだ」

「俺は任務として、この国の文化、歴史、儀式すべてを頭に叩き込んでいる」

 彼の言葉は辛辣だが、その声には一切の迷いがない。
 背後から聞こえる低い声に、理央の心臓が奇妙な鼓動を刻む。

「変な感じ。誰かに教えてもらうの、久しぶり」

「教わる必要などなかった、と?」

「ほんとあんたって、どうしていつもそう、いちいちトゲある言い方するの」

 理央はムッとして振り向こうとするが、ジークの腕が理央の腰にそっと回され、強引に動きを制される。

「……動くな。崩れる」

 至近距離で、ジークの整った顔が理央を見下ろす。
 その瞳には、夜の帳のような深い色が宿っていた。

「こう……?」

 理央は、無意識に彼のほうへ体を預ける。

「ああ。それでいい」

 ジークの声が、普段よりわずかに優しい響きを帯びる。
 ただの監視役と囚われの聖女。その境界線が曖昧に溶けるような一瞬の静寂が、二人の間に特別な空気を生み出した。

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