転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
聖女リオ・アリミヌエは、白銀の礼装に身を包み、中央の円壇に立っていた。
冷たい石の床が、ペラペラの薄い儀礼靴の底から足裏に沁みる。
理央は忌々しそうにその感触に眉根を寄せた。
(インソールくらい入れさせてよね、労災降りないんだから)
しかし、ここで我を貫くのは逆に恰好悪い事であろうと理解している。
何故ならば、今この瞬間、何万という人々の視線が、彼女の一挙手一投足に集中しているからだ。
――怖くはなかった。
自分がこういう『見られる場』に立つのは、初めてではない。
社長や役員がずらりと並ぶ全社集会、炎上案件の謝罪会見、そしてパワハラ上司との地獄の週報会議。
あの理不尽な戦場で培われた鋼の胆力は、舞台装置のように整えられたこの儀式の空気さえも、むしろ落ち着いたものに思わせる。
理央はひとつ息を吸い、静かに瞳を閉じた。
神官たちが詠唱を始める。
広場の四方に設置された水晶状の拡声装置が、その神聖な響きを遠くまで届けていく。
そこに、理央の声が重なった。
澄んだメゾソプラノ。
聖女リオ・アリミヌエとして、信仰詩の旋律を奏でる。
前世で歌に自信があったわけではないが、この肉体の発声はまるで違っていた。
音が音として響くよりも前に、魂が共鳴するような感覚があった。
ジークと行った毎晩の『スパルタ指導』の成果もあるかもしれない。
両の腕がゆっくりと舞い上がる。
手のひらを天に向け、花を捧げるような仕草で、古来より伝わる所作をゆるゆると再現する。