転生聖女の労働環境改革〜処刑まで残り180日。ブラック教会をホワイト化して生存ルートを勝ち取ります。監視役の騎士様がいつの間にか私にだけ過保護な最強の番犬に!
――祈りとは、本来こういうものだったのかもしれない。
お願いではなく、想うこと。
その時だった。
広場に、ひとつ、ふたつ、やわらかな光が生まれた。
最初は錯覚かと思った者も多い。
空気中の埃に夕日が反射しただけのようにも見えた。
けれど、確かにそれは、光の粒子だった。
理央の身体からふわりと舞い上がったそれは、揺らぎながら空中を漂い、次々に数を増やしていく。
やがて光は無数の火の粉のようになり、彼女の周囲を満たした。
温かな、やわらかな、神秘的な光だった。
群衆のざわめきが、波紋のように広がっていく。
「光が……聖女様から……」
「奇跡……?」
誰かが言ったその言葉が、導火線だった。
どよめきは一気に熱を帯び、讃美と歓喜の渦へと転じていった。
石の壇上で歌い続ける理央には、その声が遠くに聞こえた。
(……えっ、ちょっと待って。何これ?)
理央は歌いながら、内心で激しく混乱していた。
(教会側が仕込んだ舞台演出? ドローン? それとも最先端のプロジェクションマッピング!? いやいや、私こんな大がかりな特効機材の発注書にハンコ押してないわよ!?)
彼女は自分自身から魔法の光が発せられているなどとは微塵も思わず、「運営のサプライズ演出」だと完全に勘違いしていた。
だが、ここで驚いて歌を止めてはプレゼン事故になる。
理央は必死にポーカーフェイスを貫き、光に包まれながらも堂々と最後まで歌い切った。
そして、円壇の縁で見守っていた男――ジーク・オベールレヒトもまた、その光景を目にしていた。
銀髪を揺らす風のなかで、彼は剣に手をかけるでもなく、ただその姿を見上げていた。
その瞳に既に、疑念の影は無い。
それは、目の前の存在が『何者』なのかを深く、正しく見定めようとする――真剣な眼差し。
ジークの手のひらが、そっと胸元の護符を握りこむ。
近衛騎士の中でも限られた――王の勅命を遂行する者にしか渡されない証であり、真実を知る者にしか重みをもたないものだった。