禁忌の花 〜最強になったらイケメン寄ってきた〜
「……ねぇ」


声が、少しだけ震えた。


「アビスって……」


その名前を口にした瞬間、隣にいたフィンの表情が変わった。


「……知ってるの?」

「昔、聞いたことがあるの」


あの頃、ルカが大切そうに抱えていた本。

『悪の伝説』
そこに出てきた、人を襲う悪の組織。


私はずっと、子供向けの作り話だと思っていた。


「……アビスって、本当にいるの?」


今度は、シオンに聞いた。

シオンは依頼書を見つめたまま、しばらく黙っていた。


「……いる」


短い言葉なのに、それだけで胸の奥がひやりとした。


「……本当に?」

「あぁ」


シオンは依頼書から視線を外さない。


「ただ、アビスに関しては情報が少なすぎる」

「情報……?」

「目撃証言は多々あるし、被害も出ている。だが、組織の全貌は何も分かってない」


その声には、いつもの淡々とした調子がなかった。


「だから、存在そのものを疑ってる奴もいる」

「……そうなんだ」


私はもう一度、依頼書を見る。

紙切れ一枚。そこに書かれた名前が、急に恐ろしいものに見えた。


___アビス。

昔、ルカが楽しそうに話していた名前。


「……私、アビスなんていないって言っちゃったんだ」


ぽつりと呟く。

誰に向けた言葉でもなかった。


ただ、胸の奥に残っていた後悔が、勝手にこぼれた。

シオンも、フィンも、何も言わなかった。


ただ、フィンが依頼書を見上げながら、小さく息を吐く。


「……存在してたとしても」


その声は、さっきまでよりずっと静かだった。


「普通のギルドじゃ、どうにもならないと思うけどね」

「どうして?」

「強さの問題」


フィンの指が、依頼書の端に触れる。


「アビスについて分かってることなんて、ほとんどない。それに___」


一度、言葉を切る。
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